一着の洋服は、単なる衣服ではない。それは着る人の人生に寄り添い、その人の品格や自信を静かに映し出す存在である。大阪を代表する老舗「紳士服 松崎」は、日本三大テーラーの一つとして110年以上にわたり、日本のビスポーク文化を牽引してきた。”技術の松崎”と称される所以は、卓越技能者(現代の名工)を数多く輩出し、「30年経っても型崩れしない」と語り継がれる確かな仕立てにある。
(※本記事は、雑誌『SeaDream』(vol.42)の記事を編集、再掲載したものです)


創業以来、松崎は単に洋服を仕立てるだけではなく、日本の洋服文化そのものを築いてきた。昭和初期には専門誌『テイラー』『洋装研究』を発刊し、従来の短寸式に代わる「胸寸式」の裁断理論を確立。その成果は『松崎式裁断全書』などとしてまとめられ、国立国会図書館に収蔵されている。さらに製図は欧米以外で唯一『American Gentleman and Sartorial Art Journal』に掲載され、米国議会図書館にも保存されるなど、日本の技術を世界へ発信してきた。

──洋服を売る仕事をしてしまうと、単に物を売ることになる。私たちの使命は、お客さまが幸せになるためのお手伝いです──
現会長・松崎浩一氏の言葉には、創業者から受け継ぐ哲学が凝縮されている。大切なのは服そのものではなく、その一着をまとって人生の晴れ舞台へ向かう人の笑顔である。だからこそ松崎は、伝統技術を守る一方でCADによる型紙補正などデジタル化にも早くから取り組み、若い職人の育成にも力を注いできた。

──真のお洒落とは、清潔感と品格があり、自分だけでなく、周りの方々が共に幸せになるお手伝いができること──
そう語る松崎会長の美学は、海を愛する紳士にも通じる。優れたヨットが美しいラインを備えるように、優れたジャケットもまた着る人の身体と所作を最も美しく見せる。潮風を感じるデッキで、あるいはクラブハウスで語らう夕暮れに、上質なジャケットは静かな存在感を放つ。海とファッションは、ともに人生を豊かに彩る文化であり、時代を超えて受け継がれる本物のクラフトマンシップが息付いている。
(文=中山清美 写真=紳士服 松崎、落合明人/舵社)

紳士服 松崎
大阪府大阪市中央区北浜3-1-21 松崎ビル1F
営業時間:平日(10:00~18:30)
定休日:土曜・日曜日・祝日
TEL:06-6231-3417
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