2日目の艇長会議。天気はよいが風がない・・・

ヨット マリン業界 レース
「湖上のプロレス」全日本ソリング選手権! 9度の王者・坂上智文の“10回目の優勝宣言”に波乱の初日/レポート前編
第53回 全日本ソリング級ヨット選手権大会が、10月3~4日の2日間、長野県上諏訪の諏訪湖で開催された。湖上のプロレス、湖上のデスマッチと呼ばれるソリング級。それはなぜか。帝王ジャイアント馬場が、闘魂アントニオ猪木が、ヒールの上田馬之助が、いやいやアブドーラ・ザ・ブッチャーが! 平成で言ったら武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也の闘魂三銃士? ってなんの話か分かりませんが、これはヨットのレースレポートです。
2026.10.15

うちのヘルムスマンはスピードスター

前編では坂上(さかうえ)智文さん率いる坂上艇(坂上智文・木内 誠・川添晴啓チーム)にばかりフォーカスして猛省したので、今回はできる限り坂上さんの話をしないように心がけたい。ということで、諏訪湖で開催された第53回全日本ソリング級ヨット選手権大会(以下、ソリング級全日本)のお話。

まず筆者である私のチームについて。福島 望さん(あだ名は、プーさん)率いる福島艇(福島 望・中村剛司(筆者)・飯田重紀チーム)は、全員和光大学体育会ヨット部、学連ヨット部出身者で構成されている。ちなみに例の帝王かつヒール(ヒールじゃなくて悪役のほうです)である坂上さんも同大ヨット部出身である。

福島さんはこれまた楽しい方で、とりあえず「自称、天才」。特に艇速メイクではずば抜けていて「スピードスター」の異名を持つ(江の島界隈にて)。505級や最近ではweta級でも活躍している。

そして普通、そういった天才肌の方は謙遜というか自分からそういうことを言わないのが美徳というかスマートだと思うが、福島さんは違う。とりえあえず誰でもかれでも、「俺って天才だよね? ね? ね?」と、「そうですね」と肯定するまで念入りな確認をしてくるタイプ。そう、なかなか愉快な方なのである。お仕事は、江の島ヨットクラブ常務理事。江の島ヨットハーバーにいつもいるので、福島さんにお会いする際は、前述の質問責めに合ってもびっくりしないようにしてもらいたい。ソリング級では、福島さんはヘルムスマンを担当している。

天才&スピードスターの福島 望さん(右)と、毒舌クールガイの飯田重紀さん

クールなヘッドセールトリマー

私はバウマンを担当。ヘッドセールトリマーは私の同期の飯田重紀くん。この飯田もくせ者で、歯に衣着せぬというか、思いやりに欠けるというか、思ったことを悪気もなくそのまま口にしちゃうクールガイ。例えば福島さんはスピードスターであるが故か、それが原因か分からないが、レースにおいてスタートは積極的ではない。第1線に並ぶことは稀で、準備信号降下、スタート1分前を切っても、ふらふらとスタートラインから遠い場所を遊覧するのが常。

すると飯田は「先輩、今スタート前って分かってるんすか?」とか、淡々と冷静にクールに、ちょっと冷たい口調で言い放つ。私が小声で「なあ、飯田。福島さん、まじでスタート前って分かってないのかもよ」とささやくと「分かってるんだよ。いつもこうだから」。そういうこと、福島さんに聞こえる声量で言わないで! もう本当に仲良く楽しくレースをしたい! そんな言われ方をした福島さんはアセアセしながらメインシートを絞り込む。スタートのフォグホーン一声。他艇と1~2艇身は離れたスタートを切るが、スルスルスルっと艇を前に出し、知らない間に風上マークを1位で回る。

そこで飯田が口を開く。頼む、嫌みとか言うなよ! 「福島先輩、あんなにやる気のないスタートしたのに、ほんと速いっすね。もうコース引くの考えなくていいから、まじで楽っす」。うーん、ギリギリオッケー。ほめている・・・と思う。まあ、福島艇はこんなチームである。

福島艇(右端)が、なんと積極的なスタートを切った珍しい瞬間。1上(いちかみ)バッチリ。今回は人が変わったようだった(その代わり、人生初のリコールもした)

ソリング級の愉快な仲間たち

丹生(たんじょう)艇(丹生 亨・中村正之・増田純二チーム)は諏訪湖をホームとする地元チーム。愉快なメンバーで、実に楽しそうにレースに挑む。突然謎のタッキングをしたかと思うと、その直後に風がリフトしたりして、さすが地元! と唸る場面が多かった(実はこっそりコースを盗ませてもらった。すみません)。これまでは取材のカメラボートに近づき撮影を求めるためのコースを引くという行為が散見したが、今回はカメラボートがなかった(本部船にカメラマンが乗った)ので自由にコースを引いたようだ。

仲艇(仲 彰英・増渕 光・中畑雅治・小林謙一チーム)は、江の島の〈アスナロ〉(J/V 35 CR)メンバーで集まった精鋭。見た目はいかついが優しい小林さん(よび名は、コバ)がムードメーカーとなり、これまた楽しく参戦。今回はティラーの根元がもげる、という前代未聞のトラブルにあったが、諏訪湖の湖上にトンテンカン!トンテンカン!と金づちによる大きな音を響かせ、見事海上でリカバリーしてみせた。

山中艇(横田 学・山中康弘・渡辺春男チーム)は前大会のチャンピオン。前大会の優勝インタビューで「神を倒しました(笑)」の名言を残したクールで強気の山中さんがリーダーであるが、ヘルムスマンの横田さんは実に謙虚。「全ては僕の心の乱れ次第(笑)。平常心で頑張ります」と、毎回奥ゆかしいコメントを残す。かの帝王かつヒール(悪役)のあの人とはずいぶん違う。初日のメインセールのハリヤードトラブルが悔やまれる。

横山艇(横山 篤・佐々木隆宏・飛田卓郎チーム)は実は急造チーム。初めましてメンバーで走り切った。特に今回最年少選手である佐々木隆宏さん(32歳)は、普段は日本ソリング協会会長の髙島 豊さんのご子息、髙島彰一さん(呼び名は、しょうちゃん)と乗っているが、今回しょうちゃんが仕事で来れなかったため、協会の配慮で新チームを編成したのである。

表彰式の様子。曇り空、雨もちらほら・・・

今回の結果をプロレスに例えると?

レース結果は下段の通り。筆者も乗った福島艇が優勝した。しかし、ディフェンディングチャンピオンのハリヤードトラブル、帝王&ヒールである坂上さんのリコール連発など、勝ったことはうれしいが、なんともしっくりこない勝ち方ではあった。

とはいえ、時代は動いた。そう、世代交代の幕開けを予感させるリザルトであった。福島さんに、今回の模様をプロレスに例えてもらおう。

「うーん、1976年の全日本プロレスチャンピオンカーニバルかな。この年は大混戦で、優勝は、なんと悪役のアブドーラ・ザ・ブッチャーでした。けが(ハリヤードトラブル)に苦しんだジャンボ鶴田が山中艇。御大ジャイアント馬場が今回は坂上艇かな。安定した力で結果決勝まで行ったけど、馬場が悪役ブッチャー相手に大暴走して反則負け。まさにリコール連発だね。僕らがブッチャー(笑)。ポイント的には、安定の実力者、大木金太郎=丹生艇も僅差ながら決勝に届かず。まだ元気だったデストロイヤー=仲艇は、強かったが取りこぼしもあり同じく僅差で・・・って感じです」

えーと。なんとなく分かりますが、舵オンライン読者にも分かるように、昭和プロレスじゃなくて、せめて平成プロレスでお願いします!

「あ、そう(笑)。では新日本プロレスで説明します。大会初日で長州 力=山中艇が慢性の肘のけがでつまずき、帝王アントニオ猪木=坂上艇は、気性の荒さが裏目に出て反則負けでポイント落とすも、最後は意地で蝶野正洋を破り2位に。武藤敬司=福島艇、蝶野正洋=丹生艇、橋本真也=仲艇は、いわゆる闘魂三銃士。実力者蝶野=丹生艇は、勝ち星を重ねたが最終戦で猪木=坂上艇に破れ優勝出来ず。最も若い橋本=仲艇は、金星(猪木を敗る)もあったが戦いに波がありポイントが安定せず。天才武藤=福島艇(笑)が飄々とシリーズを戦って優勝って感じかな・・・(笑)」

ありがとうございます。私から聞いといてなんですが、分かったような分からないような。プロレスファンにはきっと届いたと思います! 次回は『北斗の拳』に例えてもらったほうがいいかもしれない。

ちょっと、高校時代サッカー部だった飯田くん、プロレスで胸焼けしてきたんで、サッカーで例えてよ。

「ワールドカップで言うと、10回目の優勝を目指したブラジル=坂上艇と、優勝最有力候補ながらエースを欠きトラブルに巻き込まれたアルゼンチン、ドイツ=山中艇に対し、無冠だったオランダ、クロアチア=福島艇が勝ったってとこか」

ありがとう。うん、こっちのが分かりやすかも(笑)。話が長くなりそうで恐ろしかったが、例え話、一応坂上さんにも聞いてみた。

「お前ら(福島艇)が闘魂三銃士! 敗れた俺が猪木だ。バカヤロー!」

福島さんとほぼ同意見&話が短くて助かった。

今回は。燃える闘魂・アントニオ猪木を演じた坂上智文さん(左端)

ソリング級全日本、2日目の実情

すっかり忘れていたが、実際のレースについて。前日にレース委員長の重田敏浩さんと日本ソリング協会会長の髙島 豊さんが言っていたとおり、朝から無風。しかし「昨日の風が少し残っているのでとりあえず湖面に出ましょう。南西が入って安定したらいいですね」と重田さん。「こういう無風の諏訪湖は、風がぐるぐる回るんだよね。ちょっと吹いたと思っても、すぐ逆になったり。今日は重田さんの腕の見せ所だね」と髙島さん。

2人の予想通りの風となり、そして待ちに待った南西が入った。結果としては5~6ノットの風で見事に3レースを消化したのである。さすがだ。

そして、4レース目が成立するとカットレース(捨てレース。一番悪い得点を消すことができる)が適用され、もう昨日までの3レースのポイントは大きな意味をなさず、2日目に勝ったものが勝者という、それはまるでここまで1問1点できたが、最終問題は1問100点です! といったクイズ番組のような展開となった。勝っていた私たちには特にそう思えた(笑)。しかし福島艇は2日目も安定。5レース目でほぼ優勝が決まり、最終レースは抑えに回る余裕まで見せた(結局うまく抑えてない笑)。最後に、坂上艇(坂上智文・木内 誠・川添晴啓チーム)の木内さん(A級ジャッジ)が実に的確なコメントをくださった。以下に。

「2日目。第4レースを勝てば追いつくと思っていましたが、福島艇がダントツで我々は2位。さらに残る二つともトップを取ればいつもの逆転劇だと考え、スタートに賭けたがリコール。その解消後のコースどりが良くてダントツのフィニッシュ。ところがフォグホーンが鳴らずまたもやOCS。完敗でした。最終レースでは一つだけでもトップを取ろうと頑張った結果、やっとトップ獲得。この頑張りが功を奏し、タイブレイクの末2位に滑り込むことができました。来年のリベンジを誓いながら、福島艇の優勝を心から祝します。前夜の楽しい飲み会と楽しいレースをありがとうございました」。やっとレースレポートっぽくなってホッとしている。

*

初夏には東日本選手権、秋には全日本選手権が開催されるソリング級。観光地で温泉地の上諏訪、諏訪湖で競う伝統的なクラスによるレース。ご家族と一緒に参加し、ご家族はレース中に観光したりといったチームも多い。内輪ノリが強くて入りずらいイメージを持ってしまったかもしれないがそんなことはまったくなく、毎年新しい方が入ったり、若いチームがあったりと、風通しはとてもよい。初めましてでもすぐ溶け込めるはず。

キールボートながらディンギー。でも、セーリングクルーザーよりは遥かに機敏で、レース展開はやっぱりディンギーなソリング級。レンタル艇もあるので、興味ある方はぜひ協会へ連絡を。水が合えば、そのままオーナーになるのもあり。あなたも、諏訪湖でプロレス・・・じゃなくてヨットレースをしてみませんか? 一応、最後はありていに、きれいにまとめて本稿を終わります(笑)。

優勝:福島艇/福島 望・中村剛司・飯田重紀チーム

左から、飯田さん、福島さん、中村。「生まれて初めてリコールしちゃいました。やっと坂上先輩を倒しました(笑)」(福島さん)

2位:坂上艇/坂上智文・木内 誠・川添晴啓チーム

左から、木内さん、坂上さん、川添さん。「まあ、あの・・・6レース中4回リコールしたっていう(笑)。リコールに愛されたチームです」(坂上さん)。意外とおとなしいコメントで表彰式がざわざわした

3位:丹生艇/丹生 亨・中村正之・増田純二チーム

左から増田さん、中村さん、丹生さん。「同点で3位・・・ですがうれしいです! 坂上さん(神)と並んだんですから(笑)。あ、今回はアントニオ猪木か」(丹生さん)

4位:仲艇/仲 彰英・増渕 光・中畑雅治・小林謙一チーム

運営チームと一緒に撮影。ティラートラブルを乗り越えて、敢闘した! 左から椿 悠梨(つばきゆうり)さん、中畑さん、増渕さん、小林 秀(ひいず)くん、小林さん、仲さん

5位:山中艇/横田 学・山中康弘・渡辺春男チーム 

初日のメインハリヤードトラブルが悔やまれる。しかし、2日目には見事にレースをかき回してくれました! 左から山中さん、渡辺さん、横田さん

6位:横山艇/横山 篤・佐々木隆宏・飛田卓郎チーム

急造ながら実に生きのあったクルーワークを発揮。オープン参加じゃなくてもよかったんじゃない? 左から横山さん、佐々木さん、飛田さん

運営を手伝った小林 秀(ひいず)くん(12歳、小6)にも賞状が! 「なんで僕がもらえるの(笑)?」。ひいずくんはジュニアヨットセーラー。将来が楽しみです! 次回、ソリング級選手権に出場したら、最年少記録が大幅に更新される!

レース委員長兼カメラマンの重田敏浩さん(江の島ヨットクラブ理事)。八面六臂の活躍、ありがとうございました!

諏訪市セーリング協会理事長の増田純二さん。「今回のソリング級全日本は、諏訪市スポーツ祭のセーリング競技のレースを兼ねて開催されました。後日、諏訪市からも賞状を発行してもらえますので、よろしくお願いします」

本部船運営で活躍した石川延男さん。今回は自艇の1番艇を横山 篤・佐々木隆宏・飛田卓郎チームに貸し、自身は運営に徹した

全員にプレゼントされた記念品の靴下を手に! 商品を手にする椿さん(左)と、ひいずくん

第53回 全日本ソリング級ヨット選手権大会、レース結果表

  • 1位 福島 望・中村剛司・飯田重紀      
  • 得点/1-2-4-1-2-(4)/計10点   
  • 2位 坂上智文・木内 誠・川添晴啓      
  • 得点/2-OCS[6]-2-2-(OCS)-1/計13点
  • 3位 丹生 亨・中村正之・増田純二      
  • 得点/4-1-3-(4)-3-2/計13点
  • 4位 仲 彰英・増渕 光・中畑雅治・小林謙一
  • 得点/3-3-1-3-(RET[6])-5/計15点
  • 5位 横田 学・山中康弘・渡辺春男      
  • 得点/DNS[6]-DNS-(DNS)-5-1-3/計21点
  • 6位 横山 篤・佐々木隆宏・飛田卓郎    
  • 得点/オープン参加

急がないと雨が降る! 各艇、解装を猛ダッシュで終えた

日本ソリング協会会長の髙島 豊さんのコメント

「2日目は風のない中で、運営の皆さんに頑張っていただき、3レースを無事に終了することができました。途中、かなり風が落ちていることも、陸から見ていて分かりましたが、皆さんには本当によく辛抱強くレースをしていただけたと思います。昨日もお話ししたように、2年ぶりのソリング級全日本ということで、皆さんにレースを楽しんでいただけたのではないかと思います。いろいろな艇のトラブルもあり、さまざまなところでご迷惑をおかけしましたが、無事に大会を終えることができたことを、本当に感謝申し上げます」

マイクパフォーマンス、こぼれ話

今回とっても気になった点。いつもはマイクパフォーマンスに気合を燃やす坂上さんが、なぜか表彰式ではクールだったって話。そんなに2位になったこと、10 timeschampionになれなかったことが悔しかったのかな? と、恐る恐る帰りの電車で聞いてみた。

「いや、吠えたいことはたくさんあったよ。でもさ、今回は艇庫の片付けとかあったし、雨も降る予報だったし。私があそこでマイクパフォーマンスやっちゃうとさ、長くなるだろう? 電車の時間もあったし・・・何よりも妻に頼まれていた土産を見つけることができるかどうか、そればっかり考えちゃって。舵オンラインの記事的にはまずかった? すまん。適当に書いていいから!」

ずこ! 奥さまの土産探しのために早回ししてたのかよ。ちなみに奥さまからの土産オーダーは「松茸、ナガノパープル(ブドウ)、おやき(丸茄子)」。むむ、これはかなり大変そうな依頼。まあ、いい旦那さんですね、ということでで。

今回の坂上さんは、マイクパフォーマンス少な目。ちょっと寂しい自分がいる・・・。いや、普通はマイクパフォーマンスがあるヨットレースなんてないんだから、これが普通なのだ

2023年大会。『明日のジョー』ばりのクロスカウンターで闘う、坂上さん(左)と福島さん。どっちがジョーだ?

諏訪湖ヨットハーバーで全員集合。今回も楽しいレースでした! 

ソリング級全日本ギャラリー

(文=中村剛司/舵オンライン編集部、写真=重田敏浩/江の島ヨットクラブ理事)