南国パラオの海でセーリングの息吹が聞こえた|パラオ-日本親善OPディンギーレース2024

2024.04.05

3月10日にスタートした「日本-パラオ親善ヨットレース2024」(横浜→パラオ:1,726海里)、そして3月31日にスタートした「パラオ-沖縄ヨットレース2024」(パラオ→沖縄:1,226海里)と、久しぶりに本格的な国際外洋ヨットレースが続けて行われている。2019年の年末から翌年年始にかけて行われた「日本-パラオ親善ヨットレース2019-2020」が継続的に実施されていることは、関係者の努力のたまものだと感じ入るばかりだ。

一方で、この国際外洋ヨットレースと並行して、もう一つのヨットレースがパラオで開催されたことをご存じだろうか。

3月30日、パラオ・マラカル島で「パラオ-日本親善OPディンギーレース」が、パラオと日本のジュニアセーラー13人のエントリーを得て開催された。

 

 

周囲を海に囲まれた美しい島国、パラオ。海洋民族に系譜をたどるパラオではあるが、現地にはセーリングがまったく根付いていないという現況があった。

そんななか、パラオと日本の外交関係樹立25周年の記念イヤーである2019年、国際外洋ヨットレースの開催準備が進められていく一方で、もう一つ大きな取り組みがあった。それが、パラオの子供たちへのセーリング普及活動である。

日本各地から古くなって使われていないOPディンギーを集め、それらを手弁当で整備したのちにパラオに寄贈。当時の実行委員会では現地にコーチを派遣するなどして、子供たちへのセーリング指導がスタートしたのだ。

国際外洋ヨットレースはイベントとして終わったものの、こちらの活動は継続的に行われた。2022年には一般社団法人 日本パラオ青少年セーリングクラブ(JPYSC)が設立され、セーリングを通じての両国の友好活動が続けられている。同団体の公式サイトには、その設立趣旨として「海で結ばれている日本とパラオ共和国両国の青少年に対して、海洋文化の普及と未来に向け、この大切な海を守るために何が必要であるかを考える機会をセーリングディンギーを用いて実践し、日本とパラオ共和国の親善と友好の絆をより強固とすることを目的としています」ということが記載されている。

 

その間、同クラブが派遣していたコーチ(仙田悠人さん:上写真)がJICA海外協力隊に認定され、より強固な現地での指導活動体制が確立された。また、パラオにもPalau Sailing Associationが設立されたり、パラオと日本を行き来しての交流レースが行われてもいる。

 

さて今回の「パラオ-日本親善OPディンギーレース」には、Palau Sailing Associationに所属する現地の10人のジュニアセーラー、そして日本からやって来た3人のジュニアセーラーが参加して開催された。

 

 

レースが行われたのは、現地のジュニアセーラーの活動拠点であるマラカル島ミューンズ飛行場跡。レース当日の風は16~20ノットと、白波も混じる強風コンディションとなったが、ジュニアセーラーたちは笑顔で元気にレースを楽しんでいる姿が印象的であった。

特に、パラオの子供たちのセーリング技術の向上には目を見張るばかりであった。昨年7月に横浜で行われた「第36回横浜港ボート天国 ディンギーヨットレース」には、パラオからジュニアセーラー9人が訪日して参加したが、そのときの様子を目にしていただけに、レースを重ねるにつれてトップを走る日本のジュニアセーラーに食らいついていっている姿は、とても感慨深いものがあった。

 

予定していた5レースを実施。すべてのレースをトップフィニッシュした平良海咲選手(沖縄県セーリング連盟)が優勝

 

2位は地元パラオのZenyu Idip選手。日本-パラオ親善ヨットレース2024と併せて、3月10日に横浜を出航してパラオまでの航海を実施した帆船〈みらいへ〉にも乗船してきたばかり

 

3位のSaku Niro選手。彼も同じく、今回の日本からパラオへの〈みらいへ〉の航海にも乗船してきた

 

 

レース前日の3月29日には、参加選手たちによるピクニックセーリングを実施。島をぐるっと回って、パラオパシフィックリゾートまで往復約8海里程度のデイクルーズを楽しんだ。

こういった試みも、日本ではほとんど見たことがない。ブイを回って順位を競う競技としてのセーリングはもちろん価値があると思うが、自分の手足でセーリングディンギーを操り、目的地まで行って帰って来るようなセーリングというのは子供たちにとってちょっとした冒険でもあり、セーリングだからこそ得られる貴重な体験なのではないかと強く感じた次第。プレジャーボートメディアにかかわる一人としては、あらためていろいろと考えさせられるきっかけになった。

なお、パラオパシフィックリゾートでのランチ休憩後には、パラオのジュニアセーラーたちにサプライズプレゼントが! 同リゾートが所有していたレーザー級ディンギーが、Palau Sailing Associationに寄贈されたのだ(上写真3枚目)。OP級での活動を終えたあとに、さらに継続的にセーリングができる艇を手に入れることができたのは、今後の彼らの活動にとって、とてもうれしいニュースである。

今年7月の「横浜港ボート天国 ディンギーヨットレース」には、パラオでの選抜レースを勝ち抜いたジュニアセーラーが日本にやって来る予定。JPYSCでは、今後もこういった交流活動を継続的にサポートしていくという。パラオにセーリング文化が根付き、パラオと日本の子供たちがセーリングを通じて友好関係を深めていく環境が、地道にではあるが実を結びつつある。

 

(文=安藤 健/舵社 写真提供=日本-パラオ親善ヨットレース実行委員会)

 

 


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