セーリング界で最高の権威を持つヨットレースであるアメリカズカップ。このレースを3大会連続(第35~37回)で制し、防衛者として君臨するエミレーツ・チームニュージーランド(ETNZ)だが、次回第38回大会に向けた足取りは順調ではないようだ。念願であった母国開催を断念した裏側と、ピーター・バーリングという稀代のスキッパーを放出するという衝撃の報を、プロセーラーの西村一広さんの解説とともにお送りする(編集部)
◆メインカット
photo by job vermeulen
前回第37回ACを戦った挑戦者・英国チーム(奥)はスキッパーとスポンサーが分断し、一方の防衛者エミレーツ・チームニュージーランド(手前)はスキッパーを放出した
次回AC、NZ開催頓挫か
先月4月1日、2027年開催予定の第38回アメリカズカップ(以下、AC)の自国開催を、ニュージーランド政府とオークランド市が支援しないと決定したことが明らかになった。エイプリルフールと重なったので、冗談の可能性もあると思ったが、残念ながらそうではなかった。
ただ、NZ政府とオークランド市が費用の一部を支援しないからといって、第38回ACがNZで開催できないと決まったわけでもない。個人資産家がパトロンになるか、企業がスポンサーになるかして開催費を支援すれば、NZ国内での開催は不可能ではない。今後、防衛ヨットクラブのロイヤル・ニュージーランド・ヨット・スコードロンと、その代表チームであるエミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)は、そのパトロンやスポンサー探しと並行して、他国の開催地候補を探す作業を進めることになるのだろう。
スポーツの世界で最も長い歴史を持つ世界タイトルに2度、3度と勝ち続けているのに、母国NZが経済小国であるがゆえに、その防衛戦開催に毎回苦労するETNZのふびんさを思う。しかし、これまでも幾度となく試練を乗り越えてきたETNZは、粘り強いNZ人セーラーたちの集団だ。自国開催が困難な状況を逆手に取って、成功すれば3連続目になる防衛戦を有利に進める要素の一つとして活用するなどしながら、次回大会でのAC戦4連勝に向けて歩みを進めていくんだろうな。
これまで3度、AC戦を開催してきたNZのオークランド。次回ACでは、NZ国民はこの沖で自国の防衛戦を観ることができないのだろうか?
photo by Sam Thom / America's Cup
バーリング、ETNZから離脱!
2017年バミューダで開催された第35回ACでETNZのスキッパーとしてデビューして以来、同チームのセーリングチームを率いてAC3連覇を成し遂げたピーター・バーリングが、第38回ACを前に同チームを離脱することになったと、ETNZが4月11日に発表した。
同チームのCEOグランド・ドールトンは、現代のACの開発合戦が所属セーラーにタイトな拘束を強いるものになっていると短く述べて、それがバーリングのセーリング活動に支障をきたすようになったようにほのめかしているが、詳細は不明。
(詳報は『Kazi』2025年7月号にて)
ETNZの選手を率いて、AC戦を3回闘い、3度とも勝利したが、ETNZを離れることになったピーター・バーリング。その理由はいまだ不明
photo by BMW/StudioBorlenghi/Luca Butto'
(文=西村一広)
後編に続きます!
※本記事は月刊『Kazi』2025年6月号に掲載されたものです。
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西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。