「スーパーヨット」とは、一般的には、「個人が所有する全長24メートル以上のプレジャーヨット」と定義されている。近年は海外から日本にやって来るスーパーヨットの数も増え、その経済効果も含めてさまざまな方面から注目される存在である。
そんななか、9月5日に横浜に姿を現したスーパーヨットは、サイズはもちろんコンセプトも含めて、間違いなく規格外の一艇だといえるだろう。
建造当初から世界中で大きな注目を集めてきたスーパーヨットの名は、〈ナウシカ(NAUSICAÄ)〉。ドイツのルーセン(Lürssen)で建造された全長114.2メートルの“超”スーパーヨットは、2026年5月に進水し、今回が初来日となる。
オーナーはZOZOの創業者として知られる前澤友作氏。宇宙への個人旅行も実現したあの人だ。
〈ナウシカ〉が横浜に寄港して以来、SNSを中心にちょっとしたニュースになっていたが、実際に自分の目で確かめるべく、長雨の合間の9月17日、横浜に向かった次第だ。

〈ナウシカ〉を建造したのはドイツのルーセンヨット。同社は、スーパーヨットの世界では圧倒的な存在感を放つビルダーで、世界最大のスーパーヨットとして知られる〈Azzam〉(全長180.6メートル)をはじめ、名だたるカスタムヨットの数々を手がける名門中の名門として知られている。その創業150周年を記念する「プロジェクトコスモス」として、〈ナウシカ〉の建造が進められた。
上の写真は、前方から見た〈ナウシカ〉。数あるスーパーヨットたちとは全く異なる斬新なデザインが光る。360度をパノラマで見渡すことのできる「ガラスリボン」(写真の黒い部分)がアッパーデッキにあしらわれており、このヨットに強烈な個性を与えている。曲線が連なるガラスは、ルーセンの技術の粋を尽くしたものだといえるだろう。このエリアは一般的な艇ではメインサロンとなるが、〈ナウシカ〉では二層吹き抜けのアトリウムへとつながる広大なアートギャラリーとなっている模様。フォアデッキ(船首甲板)はヘリポートになっており、自家用ヘリの発着が可能だ。
デザインを担当したのマーク・ニューソン(Marc Newson)。スーパーヨットの世界に強烈な足跡を残した芸術作品でもある。

真後ろから見たところ。全幅は18.7メートルもある。後部の奥に見えているのは、左舷側に係留している“テンダー(足船)”(?)を格納するためのドライドック。写真では見えないが、その上のデッキレベルには巨大なプールが設けられている。最上層に見えるガラス製のドームはオーナー専用の書斎。
ルーセンの公式サイトに掲載されたリリースを読むと、フネとしては「アイスクラス1D」というカテゴリーに属し、流氷が浮かぶ極地の海を走る堪航性を備えているという。いわゆる極地航海、長距離航海を目的としたエクスプローラーヨットであり、圧倒的にタフな性格を持つ一艇なのである。
推進装置は、ディーゼル発電による電動駆動の「アジマス・ポッド(旋回式推進器)」を搭載。また、試験的にメタノール燃料電池システムも搭載しているようで、CO2を出さず環境にも配慮した次世代のスーパーヨットという側面も見逃せない。

筆者が横浜を訪れたこの日、左舷側後方に係留されていたボートは、全長が12.5メートル(約40フィート)もある! アウトリガーを備えた、オーソドックスなスタイルのスポーツフィッシャーだ。停泊した母船から、このボートで海に出て釣りを楽しむのだろうか。
ちなみにこのフィッシングボートの名前は〈テト(TETO)〉。映画『風の谷のナウシカ』に登場するキツネリスの名前だ。きっと前澤氏は、宮崎 駿作品の熱心なファンなのだろう。

筆者が岸壁から写真を撮影していると、〈ナウシカ〉のクルーたちが作業の手を留めて、笑顔でVサインで写真に納まってくれた。最大18人のゲストに対し、クルーはその倍の36人が常駐できるように設計されているようだ。

〈ナウシカ〉には、〈テト〉以外にも複数のボートが搭載されていて、月刊『ボート倶楽部』の筆者としておなじみの小野信昭さんが見たときには左舷のゲートが開いており、30フィートほどのRIB(船外機2基掛け)が搭載されている様子を目にすることができたそう。これ以外にも、潜水艇も搭載されているようだ。
写真提供=小野信昭氏

筆者が見学に訪れた9月17日には、対岸のハンマーヘッド(新港客船ふ頭ターミナル)に、翌々日の19日に初就航を控えた話題のラグジュアリー客船〈MITSUI OCEAN SAKURA(三井オーシャンサクラ)〉が停泊しているのを見ることができた。フネ好きにはたまらない光景だと思う。

ハンマーヘッド側の岸壁から見た〈ナウシカ〉。このサイズ感、そして威風堂々としたフォルムに、とにかく圧倒されるばかりだ。

筆者が横浜を訪れた9月17日には、すでに姿を消していたが(前日の16日に出港した)、その数日前には近隣の臨港パークの岸壁に巨大なスーパーヨットが寄港。〈ナウシカ〉よりもさらに大きな、全長118メートルの〈ローンチパッド(LAUNCH PAD)〉で、オーナーはフェイスブックの創業者として知られるマーク・ザッカーバーグなのだ!
2024年に進水した新しいスーパーヨットで、どうやら給油のために日本に立ち寄ったというのが、もっぱらの噂。
写真提供=小野信昭氏


〈ローンチパッド〉を見ることができずに意気消沈していた筆者だが、なんと9月17日の午前中には別のスーパーヨットが臨港パークの脇の岸壁に新たに入港してきたのを目撃することができた!
全長80.1メートル、このなんとも珍しい形をしたスーパーヨット〈ウイングマン(WINGMAN)〉のオーナーは、〈ローンチパッド〉と同じくマーク・ザッカーバーグ氏。オランダのDAMEN YACHTING建造、〈ローンチパッド〉の支援船として航海にお供しているのだという。
ボートをはじめとするさまざまなウオーターアクティビティーや荷物を搭載しているほか、ヘリポートや巨大なクレーンも備えている。船首デッキには、なんとバスケットボールのコートまである模様だ。まさに「世界最高峰のシャドーヨット」と呼ぶべき、贅沢な任務を担う一艇だといえるだろう。
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世界でもトップクラスのビリオネアが所有するスーパーヨットが、期せずして晩夏の横浜に次々と集結。こんな光景を日本で見ることができるようになるとは、まさか夢にも思わなかった。
さまざまな世界で成功した者たちの多くが、最後に行き着くところがスーパーヨットなのかもしれない。自分自身の夢をカタチにした世界に一つしかない一艇で、海の上で過ごす時間というのはプライスレスなものなのだろう。2026年の晩夏に、こちらもいい夢を見せてもらった。

ちなみに筆者は日本に寄港中のスーパーヨットの動向を、AIS情報を反映したウェブサイト「Marine Traffic」でワッチしている。試しに、虫眼鏡マークの検索窓に「NAUSICAÄ」と入れてみてほしい。この原稿を書いている9月25日21:00の最新の位置情報を見ると、伊豆大島の北を航行中で目的地の神戸を目指している模様。神出鬼没の〈ナウシカ〉、次は大阪湾に姿を現す気配が濃厚だ。
ぜひチャンスがあれば、とにかく実艇を見に行くことを強くおすすめする。百聞は一見に如かずという言葉の意味を痛感するはずだ。
(文・写真=安藤 健/舵社)





















