
なんでクルマが水の上を走ってるの!?
なんなんだ、これは──例えば水辺を歩いているときに、タイトル写真のような風景に出くわしたら、誰もがそう思うに違いない。古今東西、水の上を走る乗り物といえば「船」というふうに決まっている。それが当たり前だろう。
でもそんな常識を覆すのが、冒頭の風景。間違ってもAIで作った画像などではなく、オープンタイプのラグジュアリーカー(らしきもの)が走っているのは東京の江戸川なのだ。なんとなくその存在を知ってはいたものの、実際に目にしたときの驚きとワクワク感は、久しく忘れていたものだった。
灼熱の太陽が照り付ける真夏のある日、向かった先は東京都江戸川区にあるイズミマリーン。同社の名物社長である岡田 泉さんに、「面白い乗り物があるから遊びに来なよ」と以前からお誘いをいただいていたのだが、ようやく実現にこぎつけた次第だ。
マリーナの陸置スペースに並ぶボートに混じって、なぜかクルマが船台に乗っている。明らかに不思議な風景だ。やがて、その“クルマ”は水の上に浮かべられた・・・。

ジェットエンジンを搭載
今回紹介するのは、その名も「ジェットカー(JET CAR)」。“カー”と名乗ってはいるものの、カテゴリーはれっきとした「船」に属している。
全長は5.17メートル、外観も車内(船内?)の様子も、本物のクルマと見まがうばかりの雰囲気だ。ボディーは、軽量かつ強度のあるFRPで造られている。

このジェットカーの製造元は、トルコのエレガンスマリンという会社。今回紹介する4シーターのラグジュアリーカータイプのほか、2シーターのスポーツカータイプ、屋根の付いたSUV風のモデルなど、いくつかのラインアップをそろえている。すでに500隻以上を建造し、12カ国以上に輸出。ドバイをはじめ、世界のセレブリティーにも人気を集めているそうだ。
イズミマリーンでは2024年から取り扱いをスタートし、すでに日本に数艇を輸入・販売している。ボートのみならず、スーパーカーやヘリコプターを所有するなど、生粋の乗り物好きとして知られる岡田社長は、「せっかくのスーパーカーでも、渋滞の中をノロノロ運転なんてことも当たり前。だったら、渋滞のない海の上をクルマで走れたら面白いじゃないですか」と笑う。


トルコからはエンジン無しの“船体”だけの状態で輸入され、日本に着いてからイズミマリーンでエンジンを搭載するなどの最終組み立てを実施。エンジンは、ヤマハのPWC(水上オートバイ)のジェットエンジンを載せている。ただ、ジェットエンジン単体では販売されていないため、新品のPWCからエンジンやドライブ、操作部などを移植しているそうだ。
もちろんJCI(日本小型船舶検査機構)による検査も通っていて、取材艇は限定沿海仕様。航海灯など必要な法定備品を設置し、夜間航行を取った例もあるという。乗船する船長は、自動車の運転免許ではなくボート免許が必要となる。


水の上を走る悦び
いよいよ待望の試乗へ。ドアを開けてシートに体をうずめて──といきたいところだが、残念ながらドアはないので(ドアを模したイミテーション)、舷側を乗り越えて船内に乗り込む。操縦席に座ったときの感覚や視界は、間違いなくクルマのそれ。なんとも不思議というよりほかにない。


係留ロープを解いて、微速で桟橋から離れていく。シートに座った状態での視線は低く、まるでクルマのような感覚でステアリングを握る。広い水面に出てアクセルペダルを踏み込むと、グーンと一気に加速していく。
このあたりは、船外機や船内機を搭載した一般のボートとは違い、ジェットボート独特の走りの特性がある。ステアリングも回転させるタイプではなく、左右に少し舵を切るというシステムで、アクセルペダルやライドのレバー操作も含めて慣れが必要だろう。

平水で行った試乗時に正確な速度は計測できなかったが、同乗したイズミマリーンのスタッフによれば、最高速度は40ノットオーバーとのこと。ジェットエンジンは、ヤマハのSVHO250(250馬力)を搭載している。オープンカータイプかつ、ドライバーの目線が低いこともあって、体感速度はかなり速く感じられた。20ノット程度の巡航速度で走っても、かなりの爽快感が得られたし、ドライブすることそのものが楽しいボートだ。なお、水面に波が出てくると、どうしても走りにくくなり、スプレーも多少かかるとのこと。
特別な価値あるウオータービークル
ジェットカーを色物扱いする方もいるかもしれない。でも“プレジャーボート”という言葉があるように、やっぱり楽しくてナンボ。乗り方は限られるかもしれないが、このボートでしか得られない満足感は十分にある。20フィート台前半の国産ボートでも1,000万円を超える艇がザラという昨今、新艇で1,300万円程度(2026年10月現在)というジェットカーの価格は、それだけの“価値”があるように思う。

例えば水路をめぐる観光や結婚式のブライダルカーに使ったりと、業務での使用にもぴったりではないだろうか。都心を走り回るストリートカートのように、複数のジェットカーで水上を走り回るのもありだろう。大相撲の優勝力士がオープンカーでパレードする代わりに、ジェットカーで両国国技館から隅田川を走ったって面白い。
おしゃれなジェットカーが水面を走っていたら、きっと見ている人たちにもワクワクした気分を与えてくれるに違いない。文句なしに楽しいウオータービークルだ。
(文=安藤 健/舵社 写真=松本和久)

【SPEC】
●全長:5.17m
●全幅:2.0m
●喫水:0.3m
●燃料タンク:70L
●エンジン: ヤマハSVHO 250(183.9kW/250PS)
●価格:13,300,000円
※価格は、取材艇の2026年10月現在のもの



















