
沖縄の伝統和船「サバニ」。沖縄県の中でも方言がそれ違うように、サバニの名称も地域、島ごとに違う。沖縄本島の方言は「うちなーぐち」、宮古島は「みゃーくふつ」。前回に続き、宮古島で素敵なコースタルライフをおくる池本孝徳さんのサバニを元に、池間島での言い方をメインとし、伊良部島の佐良浜の言葉は文頭に「佐」を、本島と糸満の言葉は「糸」と区別し解説する。今回はセール編です。

池間島と糸満での呼び名の違い
前回のサバニ用語解説では船体を中心に解説した。今回はセール周辺の呼び方を解説する。
サバニの櫂(かい)は糸満では「えーく」と呼ぶが池間島では「っざく」と呼ぶ、とは前回も書いたが、かように言い方はかなり違う。セールのことは糸満では「ふー」と呼ぶが、池間島では逆に現代と同じく「ほ」と呼ぶ。マストは糸満が「はしら」、池間島が「はっさ」。また、各種バテンについても言い方がそれぞれ違うが、糸満でのガフバテン/トップバテン、ボトムバテンなどの名称は文献から拾うことができなかった。今度、糸満の有名なサバニ大工、大城 清さんにお会いすることができたらぜひとも聞いてみたい一件である。
「ほ」の各部を見る
「ほ(セール)」の各部名称も地域によって違うのである。

[マストトップのハリヤードブロック] 池間島:またがい(股がい)
[マスト] 池間島:はっさ(柱)、糸満:はしら(柱)
[ハリヤード] 池間島:みんなー(身縄)、糸満:みなー(身縄)
[ガフバテン/トップバテン] 池間島:うわーびじゃん(上帆桁)、糸満:不明
[バテンバレル] 池間島:ほじゃんなー(帆桟縄)、糸満:ふーざーんなー
[バテン]池間島:ほじゃん(帆桟)、糸満:ふーざん(帆桟)
[メインシート様] 池間島:てんなー(手縄)、糸満:てぃえんなー(手縄) ※材質は「さばなー」。木綿の縄を豚の血で染めたもの
[セール] 池間島:ほ(帆)、佐良浜:ふー(帆)、糸満:ふー(帆)
[ボトムバテンまたはブーム] 池間島:したじゃん(下帆桁)、糸満:不明
[クサビ] 池間島:かーい(楔)、糸満:しかーさ(楔)

「またがい」へのこだわり

池田さんが特にこだわったのが、「またがい」、マストトップのハリヤード・ターニングブロック部。現代のヨットでは金属製のブロック(滑車)または、高強度特殊樹脂やカーボンファイバーが使用される。
「『はっさ(柱)』の頂部、『みんなー(身縄)[ハリヤード]』をターンさせるブロックは写真左の金物が多いが、昔は写真右の『またがい(股がい)』を使った。材質はテリハボク(照葉木。やらぶ、やろうぎとも)の枝。『はっさ』を立てる時など、『みんなー』と一緒にぎゅっと握り、常にピンと張っている状態にし、Yから脱線せぬよう注意」(池田さん)
「みんなー」ハリヤードの仕組

「みんなー」は、乗艇位置から揚げ下げするので、ここにだけ現代的なカムクリートを設置した。緊急時にすぐセールダウンするためだが、「できれば着けたくない」と池本さんは言う。ここだけ現代的な艤装が残ってしまっているのである。伝統をとるか、安全をとるか・・・。難しい問題だ。


「しぼり」「ぶくろ」「なかじゃん」とは?
「しぼり」とは
サバニの帆はピークからフットまで一枚の平坦な布で、ラフコードやリーチコードを絞って強制的に湾曲させ、それがドラフトになる
「ぶくろ」とは
「ほじゃん」と「ほじゃん」の間のパネルの名称。ドラフトを作るシームは無い。「ひとふくろ、ふたふくろ」と数える
「なかじゃん」とは
「うわーびじゃん」と「したじゃん」の間の「ほじゃん」それぞれの名称。「ひとさん、ふたさん」と数える
池本さんの研究ノートを見る


池本さん手書きのメモが書かれたノート。参考資料のコピーの上にびっしりと糸満、池間島、佐良浜の言葉の違いが書かれている
「っざく」の各部を見る
軽いほうが漕ぎやすく、舵を取るには浮力に抗う重さも必要。ざくぎーがよい重量。[柄。長さ2.5尺(75.8cm)][パドル幅、表/裏]

「っざく」三種。材質は左からざくぎー(マルバチシャノキ)、スギ、レッドシダー。ざくぎーは重く舵櫂に向いている。スギは軽い
池本さんの研究は続く
宮古島で暮らす池本さんのコースタルライフ。全6回の連載となったが、ラスト2回は少々マニアックな、あ、いや失礼、実に文化人類学的な伝統和船サバニの名称の地域差という難題に取り組んだものとなった。
この連載が月刊『Kazi』誌に掲載されたのは2026年2月号(1/5発売)。現在(2026年8月)の池田さんは、さらにもう一艇のサバニを手に入れてさらに文献を調べ、より当時の状態に近い艤装を再現する日々を送っているという。
つい先日の上京時には千葉県の浦安市郷土博物館へ赴き、やはり伝統和船である「べか船」の艤装について深く勉強したようだ。池本さんの探求は続くのでありました。
(池本さん編最終回)


池本孝徳さん Takanori Ikemoto
20 代、宮古島でダイビングとヨットに明け暮れる。本土へ渡り、『ヨッティング』誌を経て、『Kazi』誌を発行する舵社で営業を務めて2013 年退社。宮古島へ戻り、海辺のスローライフを送る。大浦漁港のスロープにて。
(文・写真=中村剛司/舵オンライン編集部)
本記事は月刊『Kazi』2026年2月号からの抜粋























