カイ&エリこと、山本 海さんと絵理さんによる、米・メイン州グリーンアイランド、無人島で行ったシーマンシップの大会に挑む練習。2人が参加したのは多国籍の若者が集うナショナルチーム。USAチームと合同で行ったこの練習の場で、彼らは無人島一周トレーニングを提案。まずは、この過酷な航程へ向けて準備が始まった。(編集部)
◆メインカット
photo by Kai Yamamoto | 僕は冒険を始める前に必ずイメージを絵でおこす。冒険を描くことで頭の中をまとめるのだ
チャートをなぞり、入り江や岬を想像する。風は、潮は、障害物は・・・
illustration by Kai Yamamoto
絵を描いた、ナロドニーハウス(Narodniehouse /国際的な家)の窓辺の机
The adventure begins
意気揚々と集まったメンバーたち。しかし、僕たちは無風の洗礼を受けることになった・・・
インターナショナルチームとUSAチームが合流してにぎわうビーチ。2隻のギグに伴走艇がそろった
入り江を出発して、セールを揚げる・・・しかし、進まない。ギグを風上に上らせることに夢中になっている間に、USAチームとの差は開いていく
40人が参加した最終トレーニング
18世紀、フランス海軍の軍艦に積まれていた大型ボート、バントリーベイギグ2隻、伴走艇2隻、40人を超える人数が集まった。カナダとの国境近く、米メーン州の無人島グリーンズアイランド一周の冒険が始まった。この航海は、来るシーマンシップ大会へ挑む準備のため、僕たちが計画した最終トレーニングだ。
出航して早々に僕らのギグ、〈ロイヤリティー〉は帆を高々と揚げて帆走を始めた。みんな意気揚々、船の雰囲気は明るい。計画では島の西側を出発、南に下り、反時計回りの一周計画だ。グリーンズアイランドは小さく、一周4マイルほど。海図から起こした航海計画では難なくこなせるだろうと見積もっていたが、アゲインストの潮流と南からの風に阻まれ、一向に島の南端に近づくことができない。いままでの練習がよくなかったのか、セールの角度が良くないのだろうか、ヘッドセールのタックを調整し、船の前後に移動しトリムを変えてみたりといろいろアイデアが出るが、船は同じところを繰り返し往復しているようにしか見えない。南からの風と潮流に行く手を阻まれていることは確かだが、一向に近づかない島の南西端の灯台を苦々しくにらむ。
一方、USAチームのギグ、〈ヒューマニティー〉に目をやると、マストも立てず、オールで悠々と確実に島の南端の岬に船を進めている。
僕らは全員でハッとさせられる。セーリングを覚えたての僕らは、オールで漕ぐことよりもセーリングのほうが「良いもの」「レベルの高いこと」「高いシーマンシップを発揮している」と勘違いしてしまっていたのだ。
シーマンシップは長い年月をかけて船乗りたちが作り上げてきた、そして今も進化させ続けている「海を渡る具体的な方法論と知恵の集合」だ。
Time to Row!
自信をつけた帆走にこだわってしまった僕たち。帆走から漕走への切り替えは、おごった心の切り替えでもあった。
ストローク(スターンの重要なポジション)の掛け声でリズムを作り、力強く漕走する〈ロイヤリティー〉
セーリングは確かに素晴らしいし、技術を磨くこと自体にのめり込んでしまいがちだが、僕らが目指していることは島の一周であって、セーリングではない。僕らはUSAチームよりセーリングは上手くなっていたし、チーム全体も自信があった。しかし、より速く、より風上に上(のぼ)ることにじたばたと躍起になっている1時間のうちに、オールで確実に岬を回ることを選択した〈ヒューマニティー〉とどちらが高いシーマンシップを発揮しているかは明らかだ。
目が覚めたかのようにオールに切り替え、漕ぎ始めた僕らのチーム。USAチームに後れをとりながらも、なんとか航海のスケジュールに追いつけるように一生懸命に漕いだ。
グリーンズアイランドの南側は外海に面しており、うねりと波が高くて船内に波が打ち込む。特に波を横から受ける形だと、オールの先が水面に当たってしまい、うまく漕ぐことができない。そんな時、一番スターン側で漕いでいるストローク(漕ぐタイミングやリズムを決める重要なポジション)が漕ぐタイミングを早くしてオールが水をつかむ瞬間に合わせて「ハッ!! ハッ!! ハッ!!」と叫ぶ。彼らに合わせて短く、強く、速く漕ぐことで波に負けずに船のスピードを失うことなく波を越えるのだ。
結果、最初の入り江には僕たちの〈ロイヤリティー〉(左)が先に着艇した
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和船帽子の陽気なダグラスさんとの出会い/カイ&エリが挑戦・シーマンシップ大会1-1
(文・写真=山本 海/スピリット・オブ・セイラーズ 写真=山本絵理/スピリット・オブ・セイラーズ)
※本記事は月刊『Kazi』2025年5月号に掲載されたものを再編纂しています。バックナンバーおよび電子版をぜひ
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山本 海
Kai Yamamoto
セイルトレーニング帆船〈海星〉勤務後、国内外の数々の帆船で活躍。2015年スピリット・オブ・セイラーズを設立。ISPA公認スクールを開講(沖縄、三重など)。「DIY無人島航海計画」を主催。マリンジャーナリストとしても、活躍中。現在、マリーナ河芸やシーガルヨットクラブを拠点に活動中。 https://spiritofsailors.com