AC38回大会に新たなチャレンジャー参戦か?&ETNZに強力な新戦力が加入!|AC日記2026年4月号

2026.05.04

第38回アメリカズカップの挑戦状提出期限が、急遽当初の予定の1月末から延長されて3月末までとなりました。これは新規参戦を検討しているチームに対する配慮であることは明白。ここで注目されていたのは、去就が取り沙汰されるアメリカンマジックや、マッチレースの世界王者クリス・プール率いる新チームら米国勢の動向です。一方、防衛者には五輪金メダリストが電撃加入。混迷と期待が交錯する最新状況を、プロセーラーの西村一広さんが読み解きます(編集部)

※本記事は月刊『Kazi』2026年4月号に掲載されたものです。

◆タイトル写真
2024年第37回ACのルイ・ヴィトン カップ緒戦で防衛者ETNZ(奥)を相手に走るアメリカンマジック挑戦艇〈パトリオット〉。トム・スリングスビーとのコンビで操舵を担当するはずだったポール・グッディソンの負傷欠場で、挑戦者決定戦後半に失速して敗退したが、挑戦者になってもおかしくないチームだった
photo by Ricardo Pinto / America's Cup

 

延長された挑戦締め切り

今後のアメリカズカップ(以下、AC)を運営するのだという「ACパートナーシップ」という枠組みの具体像がよく見えないまま、2027年にナポリで開催される第38回ACはこれまで通り、現在の防衛チームであるエミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)が主催者の役割を担うことになっている。

そのETNZからもACパートナーシップからも公式発表がないまま、今年1月31日までと定められていた第38回ACへの挑戦状提出期限が3月31日まで延長された、とロイター通信が2月1日に報じた。

それから少し後になって、ETNZは地元セーリング誌にその事実を伝えた。「?」マークが頭に浮かぶが、考えてみれば挑戦状提出締切日の延長など、第38回AC挑戦の可能性を模索しているチームの要求を、すでに参戦を決めている5チームが認めればいいだけのこと。

ACでは歴史的に密室でものごとが進むことも多い。部外者が騒ぎ立てることではないのだろう。

 

可能性ある米国2チーム

延期された期限の3月31日までに挑戦状を提出する可能性があるヨットクラブは、米国に二つある。

その二つともがニューヨーク(以下、NY)市内にクラブハウスを持つヨットクラブ(以下、YC)である。

そのうちの一つは、先月号(2026年3月号)この日記でも示唆した通り、代表チームとしてアメリカンマジックを擁するNYYCだ。

アメリカンマジックは昨年末に、第38回ACには挑戦しないとコメントした。にもかかわらず、AC75クラスによる過去2回のAC挑戦で、開発したAC75クラスの艇体(次回AC挑戦にはこれが必要)を保有している。

次回ACの付帯イベントであるユースACとウイメンズACにも参加表明している。

フォイリング艇でも頭角を現してきた名門メルジェス家の第四世代、ハリー・メルジェス4世も擁している。第38回ACに参加しないことのほうが不自然のように思われている。

 


現在ではハリー・メルジェス4世がアメリカンマジックに入り、AC40やTP52でヘルムスとして活躍している。このチームがデンマークから買収したSailGPチームのドライバーにもなるのだろう
photo by American Magic

 

挑戦表明する可能性があるもう一つのNY市内のYCは、シーワンハカ・コリンシアンYC。

このクラブの代表チームを率いるのは、現在、世界マッチレースランキング1位の米国人セーラー、クリス・プール。

このYCは、海運を主業とする著名な物流企業をメインスポンサーに据えて挑戦準備を進めていることを昨年末に発表した。

ACの世界に新鮮な話題をもたらしたこのYCとその代表チームの可能性にも、期待を寄せたいと思う。


米国ニューヨーク市ロングアイランドにあるシーワンハカ・コリンシアンYC。直近4年間世界マッチレースランキングのトップに君臨するクリス・プールが率いるリップタイド・レーシングの挑戦母体として、第38回ACへの挑戦実現に向けてまい進しているという
photo by Seawanhaka Corinthian YC


シーワンハカ・コリンシアンYCの代表チームを率いるのはマッチレース王者C・プール。過去のマッチレース王者T・キャンフィールドの場合はSailGPでは芽を出せずにもがいている。もしこの挑戦が実現しても、フォイリング時代のACでプールが力を発揮できるかどうかは未知数だ
photo by Ian Roman

 

オージー金銀メダリストが新たにETNZ入り

ETNZのセーリングチームに、オーストラリア人セーラーのイアン・ジェンセンが新たに加入した。

ジェンセンは、ETNZのスキッパーを務めるネイサン・アウタリッジのクルーとして2012年のロンドンオリンピック49er級で金メダル、その次の2016年リオデジャネイロオリンピックでは銀メダルを獲得したセーラーだ。

ちなみに、2012年大会の49er級銀メダルは、ニュージーランドのピーター・バーリングとブレア・テューク、2016年大会の49er級金メダルはバーリングとテュークである。

つまり、オリンピックで2大会連続して49er級の金・銀メダルを独占したこの2チーム4人のうち、イタリアのルナロッサに移籍したバーリングを除く3人が、第38回ACに向けてETNZに集められたことになる。


ロンドン五輪2012、リオデジャネイロ五輪2016の49er級で、ネイサン・アウタリッジとのコンビで金・銀メダルを獲得したイアン・ジェンセン。49er級や29er級といった高性能スキフだけに限らず、モスクラスでも世界上位の成績を残している
photo by Australian Sailing Team

 

ジェンセンは、トム・スリングスビー率いるオーストラリアチームの選手として、SailGPでも活躍している。

現在のAC選手たちの多くは、高速フォイリング中にトランポリン(両舷のハル間にかけられたメッシュ状のデッキ)上を移動するF50クラス(フォイリングカタマラン)によるSailGPでも活動しているため、けがの心配も多い。

選手のけがの程度次第ではAC戦の戦力に影響が及ぶ。ジェンセンのETNZ加入は、その場合に対応するための策なのだろうか?

ちなみに、今年のSailGP開幕戦では、それぞれ別のチームで参加したETNZのクリス・ドレイパーとジェンセンが、顔面と膝を負傷した。

2027年7月の本戦へと続いていく第38回ACの関連レースイベントは、今年5月にイタリア、サルディニア島カーリアリで開催されるAC40クラスによるレースから開始される。


イアン・ジェンセン(中央)は、トム・スリングスビー率いるSailGPオーストラリア代表の強豪チーム、ボンズ・フライングルースの選手でもある。第38回ACも、スキフやモス級で育った現代の辣腕(らつわん)セーラーたちが中心になって闘う場になるのだろう
photo by Ricardo Pinto for SailGP

 

(文=西村一広)

 


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西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


 

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