
新門司から世界へ――。北九州・新門司マリーナに、次世代を担う若き才能が集結しました。
ブラジルで開催される「SSL Gold Cup 2026」の日本代表選考会が、実戦型トレーニング「FE28R BOOTCAMP」と連携した「FE28R SAILING BOOTCAMP in SHINMOJI 2026 SSL Team Japan SELECTION SERIES」として実施。
選考を担った伊藝徳雄氏と、本イベント主催者の藤田武己氏、それぞれの視点から情熱が交錯した2日間の全容をダブルレポートでお届けします!(舵オンライン編集部)
(写真提供=中嶋一成)
SSL Team Japan、第1回ヤングメンバーセレクションを実施
SSL TEAM JAPANレポート=伊藝徳雄
世界の舞台を懸けた2日間
2026年4月25、26日。北九州・新門司マリーナに、全国から10人の若手セーラーが集まった。
SSL Team Japanは、今年11月から12月にかけてブラジル・リオデジャネイロで開催予定の「SSL Gold Cup 2026」に向けた第1回ヤングメンバーセレクションを実施した。
今回のセレクションは、新門司マリーナで展開されている「FE28R SAILING BOOTCAMP in SHINMOJI」(以下、FE28R BOOTCAMP)と連携する形で行われた。
ファーイースト28R(FE28R)を使用した実戦形式のトレーニング環境の中で、SSL Team Japan候補生10人は、参加4チームとともに同じ海面で走り、選考に臨んだ。
FE28R BOOTCAMPは、若手セーラーにとって非常に質の高い実戦経験を積める場であり、今後ここから多くの優れたセーラーが育っていくことを確信させるプログラムである。
今回の目的は、SSL Gold Cup 2026に出場する日本代表チームへ若手メンバーを選出すること。
FE28R BOOTCAMPの実施内容との親和性は非常に高く、充実したセレクションとなった。

新門司マリーナで開催された「FE28R SAILING BOOTCAMP in SHINMOJI 2026 SSL Team Japan SELECTION SERIES」。SSL日本代表の若手選考会と、トレーニングキャンプであるFE28R BOOTCAMPとが並行して実施された



今回参加したSSL Team Japan候補生は10人。35歳以下の若手セーラーが募集対象となり、書類選考を通過した精鋭が先行に挑む
SSLとは何か
「Star Sailors League(スターセーラーズリーグ)」、通称SSLは、2013年にスイスで設立された国際的なセーリング競技組織である。
テニスのATPツアーをモデルとしたポイントシステムにより、世界各地のレガッタ結果を横断的にランキング化し、World Sailingからもグローバルなセーリングプラットフォームとして認定されている。
その旗艦イベントがSSL Gold Cupだ。
「セーリング版ワールドカップ」をコンセプトに掲げ、World SailingからSpecial Eventステータスを付与された国別対抗戦であり、各国代表がワンデザイン艇であるSSL47に乗り込み、1レース4艇によるノックアウト方式で「World Champion of Nations」を競う。
第2回となる2026年大会には、ブラジル・リオデジャネイロに40カ国が集結する予定である。

「セーリング版ワールドカップ」を目指し発足したSSL Gold Cup。大会イメージ画像は背景をスタジアムにしており、大会が目指す方向性を感じさせる

大会で使用されるSSL47。黄金のハルカラーが目を引くワンデザイン艇だ。大きなセールエリアと細く長いキールストラットを有する、フルカーボンのレーシングヨットである
2023年に開催された第1回大会では、日本が誇るキールボートセーラーが集結して参戦。奮闘するも惜しくも上位に駒を進めることはできなかった。こちらの模様は『Kazi』2024年2月号で掲載。また、YouTubeでも当時のレースの模様が公開されている

世界的な名手が多く参加した本大会を制し、優勝トロフィーである金杯を抱くハンガリーチーム。アメリカズカップの優勝杯である銀杯のように、セーリング界のビッグタイトルになりえるトロフィーだ
10人の新風が新門司から挑む
今回の選考では、基礎知識、クルーワーク、理解力、応用力、コミュニケーション力、フィジカルの6項目を軸に評価を行った。
海上での実技審査に加え、陸上でのフィジカルチェック、個別インタビュー、ブリーフィング形式での確認も実施。
参加した10人はいずれも書類選考を通過した若手セーラーであり、世代や経験値は異なりながらも、同じ目標に向かって全力で取り組んだ。
第2回セレクションは、5月9日に葉山マリーナで実施予定である。
この若手メンバーセレクションを経て、主要メンバーは6月頃に最終確定する見込みだ。
大会規程では、SSLグローバルランキングからの選出要件、スキッパー2人以上を含む3人以上の選出、男女各2人以上の参加義務なども定められており、チーム構成には戦略的な視点も求められてくる。
選考会では伊藝徳雄さんがFE28Rに選手と同乗し、コーチングをしながら各選手のスキルを直接審査。陸上ではフィジカルチェックや面接などが実施された。本選考会と、5月9日(土)に葉山マリーナで開催される第2回選考会などを経て、選考通過者が決定される
新門司から世界へ
FE28R SAILING BOOTCAMPレポート=藤田武己(ECL Agency)
SSL Team Japan選考を兼ねた「第2回BOOTCAMP」開幕
4月25日、26日に開催された「FE28R SAILING BOOTCAMP in SHINMOJI 2026 SSL Team Japan SELECTION SERIES」。
関門海峡を望む新門司の海面には、SSL Team Japan候補生10人と、その選考会のスパーリングパートナーとして招集された4チームが集う。
世界の舞台を目指す若手セーラーたちが、同じFE28Rに乗り込み、実戦形式のトレーニングに挑んだ2日間となった。
2月に初めて開催したFE28R BOOTCAMP(同キャンプの記事はこちら)は、U35世代の若手セーラーを対象に、FE28Rというワンデザイン艇を使い、実戦形式で鍛えることを目的としたトレーニングキャンプだった。
今回のFE28R BOOTCAMPは、その流れを受け継ぎながら、SSL Team Japanの選考会を兼ねた特別なシリーズとして実施された。
単なる練習会ではない。世界の舞台へ向かう選手たちが、自分たちの現在地を確認し、次のステージへ進むための2日間である。
ファーイースト28R(FE28R)。ジェネカー仕様のワンデザインキールボート。全長は28フィート、艇体重量1,300kgと軽量でスポーティーなセーリングを味わえるが、700kgのバラストを持つことで比較的扱いやすいという。ワンデザインフリートレース艇として海外では普及が進み、新門司マリーナには6艇が導入がされている

伊藝さんはSSLの代表選考だけでなく、FE28R BOOTCAMPのコーチとしても参加。若手セーラーたちに惜しみなく自身の経験を伝えた
「実戦」の重圧の中で育むレーサーの資質
今回のコーチは、SSL Team Japanの一員として活動し、世界の舞台を経験してきた伊藝徳雄氏。
伊藝コーチは、候補生10人に対し、海上での走り、クルーワーク、判断力、チーム内でのコミュニケーション力を確認し、陸上ではフィジカルチェックも実施した。
世界を目指すうえで必要な意識と総合力を、2日間を通じて見極めた。
選考会としての密度を高めるためには、候補生だけで走るのではなく、実戦に近いプレッシャーを生み出す相手が必要となる。
そこで今回、SSL Team Japan候補生のスパーリングパートナーとして、各地で活動する4チームを新門司に招集した。
参加したのはPapillon、Enterprise Lily、Parabellum(パラベラム)、鯱鉾(しゃちほこ)。
いずれも単なる練習相手ではない。それぞれが自分たちの課題と覚悟を持ち込み、候補生たちと同じ条件で走ることで、海面上に実戦の緊張感を生み出す存在となった。

Enterprise Lilyは、吉岡岳史を艇長とする福岡のチームである。マリノアや小戸を中心に活動し、K36侍を主軸としながら、スナイプ級でのレースにも積極的に取り組んでいる。普段から九州の海で経験を重ねるチームとして、今回の新門司のBOOTCAMPにも高い集中力で臨んだ
Papillonは、加藤賢人を艇長とし、シーボニアマリーナを拠点に活動している。Enterprise Lilyと同じくK36侍で活動しており、先日のスービック遠征ではFE28Rのレースにも参戦した。そちらのレースの模様はコチラ。今回は主要メンバーであるヘルムスマンとメイントリマーの2名を欠く編成ながら、FE28Rで得た経験を生かし、粘り強く2日間を走り切った

Parabellum(左艇)は、日置賢人を艇長とし、葉山を中心に積極的に活動しているチームである。現在のJYMAマッチレースランキング1位である日置が、今回FE28Rに初参戦。同じく同ランキングWomen1位の山田美桜も乗り込み、マッチレースで培ってきた接近戦の感覚と判断力を、FE28Rのワンデザインによるショートレース形式の中で試す機会となった
鯱鉾(手前艇)は、名古屋大学ヨット部OGの林小夏を艇長とするチームである。林は、先日のU-25学生マッチレースで優勝したメンバーを率いて、今回のBOOTCAMPに初参戦した。同チームは今年9月、クロアチアで開催されるFISU世界大学セーリング選手権大会への参戦も予定している。今回参加したチームの中で唯一の女性艇長・ヘルムスマンとして、SSL Team Japan候補生や各地から集まった若手チームと同じ海面に立ち、2日間の実戦形式トレーニングに挑んだ
今回のBOOTCAMPは、順位を競うレガッタではなく、あくまでトレーニングキャンプである。
使用するFE28Rは、艇もセールも同一条件でそろえられたワンデザイン艇であり、艇の性能差に言い訳はできない。
スタート前の駆け引きや加速、タッキングやジャイビングの精度、マーク際の判断、ジェネカーの展開と回収、そしてプレッシャー下でのチーム内コミュニケーションまで、すべてが艇の走りに直結する。
限られた時間の中で、これらを実戦に近い密度で確認することが、今回の目的だった。
候補生にとっては、世界を目指すうえで自分たちに何が足りないのかを確認する場となっただろう。
一方、スパーリングパートナーとして参加した4チームにとっても、候補生たちと走ることで、自分たちに足りない部分や、逆に手応えを感じられる部分を確認する機会となったはずだ。
陸上では、選考される側と、選考会を支える側という立場の違いがある。しかし海面に出れば、そこにあるのは同じ風、同じスタートライン、同じマークだけである。
本気で走る相手がいるから、練習の密度は上がる。
簡単には前に出られない相手がいるから、スタートの一艇身に意味が生まれる。
マーク際で並ぶ相手がいるから、判断の遅れやクルーワークの乱れが見える。
今回のBOOTCAMPで目指したのは、まさにそうした環境だった。
新門司に芽吹く若手セーラーの新たな育成環境
2月の初回BOOTCAMPは、トップセーラーと若手チームが同じFE28Rに乗り、真冬の新門司で高強度の実戦トレーニングを行った。今回はその延長線上に、SSL Team Japanの選考という要素が加わった。
それでも、この企画の主旨は変わっていない。
若手セーラーが、大学卒業後も本気でセーリングを続けられる環境をつくること。艇を所有していなくても、強い相手と同じ条件で走れる場をつくること。
そして、世界を目指す選手と、その背中を追う若手が、同じ場所で刺激を受け合える機会をつくること。
新門司マリーナに6艇のFE28Rをそろえた理由は、そこにある。
今回のBOOTCAMPは、華やかな表彰や順位を目的としたイベントではない。2日間を通じて、選手たちが何を感じ、何を持ち帰るかにこそ価値がある。
SSL Team Japan候補生にとっては、世界を目指すための選考の場。
スパーリングパートナーとして参加した4チームにとっては、自分たちの現在地を確認し、次の課題を見つける場。
そして主催者にとっては、新門司という場所が、若手セーラーにとって本気で競い、学び、次に進むための海面になり得ることを、改めて確認する2日間となった。
FE28R SAILING BOOTCAMP in SHINMOJIは、まだ始まったばかりである。
しかし、この海面に集まる若手セーラーたちの熱量は、確実に次の世代へつながり始めている。
新門司から世界へ。その準備は始まっている。

左:伊藝徳雄。世界で活躍するプロセーラー。前回のSSL Team Japanのメンバーであり、次回大会も日本チームを率いる立場となる
右:藤田武己。FE28R SAILING BOOTCAMP in SHINMOJIの主催者。新門司マリーナに6艇のFE28Rを導入した仕掛け人だ

有望な若手セーラーたちが、世界でも主流となっているジェネカーボートでのセーリングに本格的に触れた2日間。この参加者たちが、未来のセーリング界をけん引していく力となっていくのだろう