いよいよ8月に開催が迫る世界最高峰のヨットレース、第37回アメリカズカップ。
前大会である第36回で話題となった、「感謝の絆創膏」。そのときに交わされた友情の絆から、今回のアメリカズカップを考察していく。
本稿は月刊『Kazi』2024年5月号に掲載された内容を再集録して公開します。(編集部)
※メインカット写真|photo by COR 36 Studio Borlenghi | あの日、上マーク回航で、通常のヨットならそれほど難しくもないタック・ベアアウェイセットを選びさえしなければ、船体にこんなダメージを受けて戦線を離脱することがなかったはずの米国艇〈パトリオット〉
初めてアメリカズカップを現場で観て以来約30年、その間、ニッポンチャレンジのセーリングチームに選抜されるなどしながら、日本のアメリカズカップ挑戦の意義を考察し続けるプロセーラー西村一広氏による、アメリカズカップ考を不定期連載で掲載する。新時代のアメリカズカップ情報を、できるだけ正確に、技術的側面も踏まえて、分かりやすく解説していただく。(編集部)
前回の第36回アメリカズカップ(以下、AC)で、AC75クラスという大型フォイリングヨットが、乗員のミスによっていったんコントロールを失ってしまうと、沈没に至る可能性があるほどのダメージを受けることを、米国ニューヨーク・ヨットクラブ(以下、NYYC)代表のアメリカンマジックの〈パトリオット〉の大破事故によって多くの人が知ることになった。
(※この事故や「感謝の絆創膏」についての関連記事はコチラの記事をご覧ください)
あの事故からも分かるように、時速100kmを超えるスピードでセーリングしているAC75クラスの船体には、通常のヨットとは桁違いのロードが掛かっている。その荷重に耐え得る頑丈な船体を、クラスルール下限の重量で建造することも、第37回ACに参加するチームにとっては大きなチャレンジである。
さらに、第37回ACのプロトコルでも、参加チームはそれぞれのヨットクラブが所属する国で参加艇の船体全てを建造しなければならないと定められている。何回か前のACのように、艇のごく一部分をその国に持ってきてプリプレグを1枚だけ積層すればOKという、ヘンテコなプロトコルではない。海の上で戦うセーラーのセーリング能力だけでなく、ヨット設計と建造技術も含めた、その国のセーリング文化全体で競い合うのが、本来あるべきAC争奪戦なのだから。
〈パトリオット〉の夜を徹しての修復には伊、英、NZチームのビルダーたちも加わった。それに感謝して貼られた絆創膏
photo by COR 36 Studio Borlenghi
(文=西村一広)
後編、AC75ビルダーたちの横顔に続きます。
※本記事は月刊『Kazi』2024年5月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ
西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。
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