Furious Fifties/ヴァンデ・グローブ実況

2020.12.18

高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況(2020/12/18 金曜日配信)

 

スタートから39日。最新(12/17 21:00[UTC])の位置がこちら。

 

先頭3艇は太平洋に入った。

 

■先頭交代

先頭3艇は、トラブルによって、激しい先頭争いを繰り広げてきた。

12月14日 1600(UTC)
シャルリー・ダラン(36歳/男性/フランス)の〈APIVIA〉が、左舷のフォイル付け根部分を破損(The damage is to the lower support, where the foil rests as it leaves the boat. )。フォイルそのものというより、フォイルの取り付け部(船体側)で、「何らかの浮遊物にあたったわけではない」、と明確に報告されている。
☆公式サイトのニュースリリース

 

陸上のチームスタッフが練った修理工程の下、洋上での修理を敢行。
Onboard video - Charlie DALIN | APIVIA - 16.12

 

艇外からの作業も必要だったようで、映像にはないが、わざとヒールさせてフォイルの取り付け部を海面上に出しての修理を行ったもよう。ちょうど風が弱くてよかった。

無事作業を終えレースに復帰した〈APIVIA〉だが、この間にトマ・ルイヤン(39歳/男性/フランス)の〈LinkedOut〉が前に出る。11月23日以来続けていたトップの座を譲り渡すことになる。

──と思いきや。
12月16日、トップに立った〈LinkedOut〉がフォクスルに浸水。
単にバウハッチの閉め忘れのようで、流れ込んだ海水をくみ出してレースは続行。

しかしこの間に、ヤニック・ベスタ(47歳/男性/フランス)の〈Maître CoQ IV〉がトップに立つ。

そして太平洋に、南緯50度圏に、入る。

 

■太平洋は広い

記事では、ついついヴァンデ・グローブのコースを "南氷洋" と書いてしまうが、正式には、「南緯60度以南」を南氷洋という。

ところが、ヴァンデ・グローブでは氷山避けのアイス・ゾーン(AEZ:Antarctic Exclusion Zone)が設定されているため、南下できる緯度は限られている。最大でも、西経80度での南緯59度が最南となる。

つまり、正式にコースを説明すると、「インド洋の南緯40度帯(Roaring Forties)から太平洋の南緯50度帯(Furious Fifties)を東行する」ということになる。

International Hydrographic Organizationsによる『LIMITS OF OCEAN AND SEAS』では、インド洋と太平洋の境界は、東経146度55分線ということになっている。

また、南太平洋と南大西洋の境界は、西経67度16分。ケープホーンの経度となる。

 

こうしてみると太平洋は広い。

 

■穏やかな40度

「ロアリング・フォーティーズ(Roaring Forties)」は、日本語にすると「吠える40度」。風も強く波も大きいことで知られる海域だ。

ところが、今年の吠える40度は穏やかで、選手が自分でドローンを飛ばしての撮影もこんな感じ。↓↓

 

追走艇団にもかかわらず、意外やノンビリムード。

フルクルーのボルボ・オーシャンレースではカメラクルーがいるので、強風下でも撮影敢行していたが。↓↓

 

 

■後続艇団は?

前回のこの欄では、「最後尾から追う後続 第2艇団のトップにファブリス・アメデオ(42歳/男性/フランス)の〈NEWREST - ART & FENÊTRES〉。白石康次郎がそれを追う」と書いた。ところが、その12月11日。〈NEWREST - ART & FENÊTRES〉がリタイアしてしまう。

コンピュータが壊れたということで、詳しいことは、こちらの記事を読んでいただくということで。

 

12月13日。いよいよ白石康次郎の〈DMG MORI GLOBAL ONE〉が後続 第2艇団のトップに躍り出る。
──かと思えば、12月15日には、ジェレミ・ベユー(44歳/男性/フランス)〈CHARAL〉が、ものすごいスピードでぶち抜いていく。

 

このあたり、ワケありで後方の位置に甘んじている2艇と、その他の後続艇とのスピード差はかなりある。
後は、いかに艇を壊さないように、しっかり走るか。

 

コージローは、その後、12月15日には穏やかな日を見計らって一旦艇を止め、メインセールをすべて降ろし、バテンの補強作業をしている。

こちら、後続艇団は、これから太平洋入りし南緯50度のFurious Fifties(荒れ狂う50度)に突入する。

 

 

(文=高槻和宏)

※「舵オンライン」では、毎週金曜日に「高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況」をお届けしています。

 

●Vendée Globe公式サイト
https://www.vendeeglobe.org/en
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高槻和宏(たかつき・かずひろ)
1955年生まれ。神奈川県在住。ヨット、ボート、カヌーなど、ジャンルを問わず海を遊ぶマリンジャーナリスト。月刊『Kazi』の人気筆者として、長年さまざまな記事を手がける。『虎の巻』シリーズ、『ヨット百科』など、ヨットに関する著作多数。


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