RYAディンギーショー|心ゆくまで楽しむ作法

2022.07.16

英国・ファーンバラ国際展示場にて、2022年2月26~27日に開催されたRYAディンギー&ウオータースポーツショー。英国サウサンプトン在住のセーラー、ソルト祥子さんが家族で訪れ、ディンギーショーを楽しく回りました。月刊『Kazi』6月号に掲載された記事を再編集してお送りします(舵オンライン編集部)

(※タイトル写真|セーリング界の未来を担う、子どもたちを意識したアトラクションやブースが数多くあった、RYAディンギー&ウオータースポーツショー) 

 


 

世界で唯一、ディンギーだけに特化した「RYAディンギーショー」を初めて訪れたのは、 コロナ禍の2020年。セーリングを始めたばかりだった娘たちに興味を持ってもらうため、 手取り足取りの付き添いであまり展示物を見られなかった反省から、 今年は1日は大人だけ、1日は子連れで行くという作戦に出た筆者が見たものは? 

(編集部注:RYA──Royal Yachting Association|英国王立ヨット協会)

 

RYAディンギーショーを楽しんだソルト家。左から夫、次女、長女、そして筆者

 

 

ロンドンから南西へ約50km、ファーンバラ国際展示場が今回の会場だ

 

 

RYAディンギー&ウオータースポーツショーの紹介PDF。表紙はディンギーを楽しむ子どもたち。ここに、今回のイベントの意義を強く感じた

 

 

 初日は大人だけで

1952年にロンドンで開催された「自作ディンギー展示会&会議」を起源とするディンギーショーは、今年から英国南部のファーンバラ国際展示場に会場を移し、コロナ禍以来のウオータースポーツ人気上昇と五輪のウインド&ウイング採用を受けて、「RYAディンギー&ウオータースポーツショー」に改称。前回より25%広い12,500平米の展示スペースは、クラス協会やクラブ、ボートビルダーやセーリングホリデー会社など160以上の出展者と、2日間で7,000人以上のビジターで賑わった。 

初日は東京2020の470級と49er級で金メダル獲得の、エイリー・マキンタイアとディラン・フレッチャーのテープカットにより開幕。入り口をくぐると、まずはRYAスタンドがあり、どんなセーリングをしていて何を見たいか、これからセーリングを始めたいがどうしたらいいかなど、どんな質問にも答えてくれる。 

大人だけ編の初日は、舵オンラインの記事にも登場した英国中部バートンSCのまりさんも合流。RYAスタンド横にあるインタラクティブゾーンで、子どもがいてはなかなかできないトラピーズシミュレーターなどを大人げなく試してみた。受け入れを担当しているユースセーラーも嫌な顔一つせず対応してくれ、ご苦労なことだ。 

昨年からセーリングを始めるやレーザーを購入したまりさんと次に向かったのは、UKレーザー協会-ILCAスタンド。そこで質問に答えてくれたのは、2012年から3連続レーザー級オリンピアンのアリソン・ヤング。ビギナーとワールドクラスのセーラーが同じ目線で話をできるのは、このショーの最大の魅力だ。 

 

“大人だけ”で楽しんだインタラクティブゾーン

普段は子どもたちが体験するのを見るだけだった体験ゾーンを思いっきり楽しもう

新旧ディンギーが勢ぞろい。ラジコンヨットコーナーでは終日レースを体験できた。ディンギーだけのヨットショーとして世界最大の規模を誇る

 

 

友人のウォードまりさんと現地で合流。初日は子どもたちと離れて、大人だけで回ります

 

 

レーザールーキーのまりさんのお腹もプルプル

 

 

学生時代以来のトラピーズで遊んでみる

 

 

ハイレベルなセミナーを楽しむ

会場内にはラジコンヨットレースやトラピーズ、セーリングのVRやシミュレーションを体験できる「インタラクティブゾーン」と、これまで同様「メインステージ」「ナリッジゾーン」に今回初登場の「ウオータースポーツステージ」という三つのステージが設置され、東京2020のメダル獲得数最多だったチームGBRのインサイトや今後の動向に関わるトークセッション、ディンギーでクルージングするためのノウハウ、小中学生に水辺の安全を啓蒙するためSUPで英国本島を一周した話、RYAレーシングダイレクターや金メダリストによるクラブ&ユースアワード授与など、レベルも方向性も幅広いコンテンツが提供された。 

子どもがいては落ち着いて聞けないエキスパートのセミナーをいくつか聞けたが、チームGBRのコーチやタクティクスのメンターが東京2020競技中のGBR選手のオンボード音声、動画やデータを惜しみなくケーススタディーとして使用しているのには、立ち見が出るくらいの人だかりができていた。内容の濃いセミナーや興味深いトークはいくつかのステージで同時に進行することもあるので、すべてを網羅したい人は2日間ステージ回りをするだけでも充実した週末を過ごすことができそうだ。 

RYAには、ディンギーやウインド&ウイング、インストラクターからレースコーチ、キールボートにヨットマスターと、あらゆる知識を網羅した書籍があり、デジタル版には動画も挿入されていて分かりやすい。オーディオブック化されたものもあり、座って本を読む時間が取れない人には便利だ。まりさんはもう一軒の水辺の遊び専門書籍出版社Fernhurstで、レーザー教本と濡れても書けるメモ帳をご購入。 

こうして1日目は、ステージトーク巡りとヨット女子の女子らしくない買い物とお喋りに終始した。 

 

“大人だけ”で楽しんだセミナーステージ

あらゆるジャンルのセミナーが各ステージで開催された。いずれもレベルが高く必聴の講座ばかり。

ナリッジゾーンの様子。ほかにもレースへの女性参加推進、クルーマスタークラス、クルージング虎の巻など盛りだくさん

 

 

東京2020で最も多くメダルを取ったチームGBRが、東京2020インサイト、パリ2024に向けた戦略について語る

 

 

ウオータースポーツステージでは、ウインドサーフィン、ウイングフォイル、SUPのワークショップやセミナーを終日開催

 

 

英国セーラーの集合知が書籍化されたRYAブックス。一部オーディオ版もあり

 

 

2028年パラリンピック・ロサンゼルス大会でのパラセーリング競技復活を支援するパラセーリング・ハブ。15ftのトライマラン、RSベンチャー、ハンザディンギ―の展示も

 

 

ロス2028でのパラセーリング復活を応援する寄せ書きボードに、49er級金メダリストの姿も。パラ復活に向けて今、世界が動いている

 

 

子どもたちの心を奪ったもの

さて2日目は子ども&夫連れ編。入り口には海賊が待ち構え、子どもたちにスタンプラリーの台紙を配っている。娘たちは台紙を手にするなり、会場マップを携えウキウキしながらスタンプをもらえるスタンドへ一目散。いろいろ見ながら褒めておだてて、セーリングは楽しいものだと刷り込まねばという母の強迫観念は全くの杞憂だった。前回も娘たちの興味を一瞬でわしづかみにしたスタンプラリーの求心力恐るべし。しかし入り口寄りから一緒に、親子そろって順番にスタンドを見て行こうとの計画も一瞬にして白紙に・・・。でも、そんな稀な機会を活用しない手はありません。 

身軽になってまず向かったのは、今回のショーでローンチされたRYAパラセーリング・ハブ。現時点でかなり定着している国内のセイラビリティーを礎に、セーラーとボランティア、コーチなどをつなぎ、情報やトレーニングを提供することでレースの機会を増やし、2028年パラリンピック・ロサンゼルス大会での障がい者セーリング復活を目指すワールドセーリングが掲げる「#BackTheBid、#SailtoLA」キャンペーンを後押しするものだ。 

49er級のディラン・フレッチャーも車椅子のセーラーと談笑したり寄せ書きにコメントを寄せたりと、パラ復活はセーリングコミュニティーの大きな関心事。奇しくも近所のセイラビリティーで教えたことのある視覚障害を持つ20代女子とお母さんに遭遇した。仕事を辞めてレーサーとしてのキャリアの可能性を探りたいとここを訪ねたそう。RYAパラセーリング・ハブがそんな熱いセーラーの背中をドンと押すネットワークとなることを願う。 

 

 

“子どもたちと”楽しんだ海賊のスタンプラリー

会場内にいる海賊たちをつかまえて、スタンプをゲットし宝箱を探すイベント。長女と次女がまっ先に夢中に!

海賊を発見! スタンプラリーの台紙を配っていた。台紙に載っているブースを宝探しふうに探し、スタンプと小物をもらう。全部集めたら一日の終わりの抽選に申し込める。子どもたちがいちばん喜んだアトラクションはコレ

 

 

スタンプラリーグッズ。サングラスやキーホルダーなどわくわくするアイテムがいっぱい

 

 

“子どもたちと”体験コーナー&シミュレーター

今年初登場のウインドサーフィン&ウイングフォイルの体験コーナーやシミュレーターで遊んでみよう!

ウインドサーフィンの体験コーナー。大きいセールでも意外と持てるものだと子どもたちが驚く。いつの間にか公式カメラマンたちに囲まれた

 

 

2021年のウィングサーフィンのトレーニングスキーム発足をうけ、ウィングシミュレーターも初登場

 

 

セーリングシミュレーターで、モニターに映る海上コースを回る。意外と難しい

 

 

VRコーナーは大人気。大人も子どもも大行列に

 

 

ディンギーショーは楽しい!

お隣のディンギークルージング協会では、Tideway12という木造のクラシックディンギーに自作テントを張ってクルージングを楽しむ夫妻に話を聞いた。17年前からこの艇に乗っているが、レースをリタイアしてからはクルージング協会というさまざまなディンギーでレジャーを楽しむこの協会に参加し、各地をツーリングしては積んできたウクレレやドラムで景勝地の夜を仲間と楽しむそうだ。 

ユースアワードでは、19歳以下の各地のセーリングクラブでコミュニティーに貢献するボランティア、資格を取り地域レースオフィサーとして初心者への講習やトレーニングを熱心に行うインストラクター、Tera級のナショナルチームに選抜されトップの位置にいたものの脳卒中に倒れ、それでも手術して復帰後はアシスタントインストラクター資格を取り他者のセーリングスキル向上をサポートし大型帆船トラストのアンバサダーとしても活躍するセーラーなどが表彰された。賞を授与したのは前述のディラン・フレッチャーと、五輪470級で2度の銀メダルを取得しボルボ・オーシャンレースではUAEチームのスキッパーとして優勝経験もある、現在RYAのレーシングダイレクターを務めるイアン・ウォーカー。世界のトップセーラーが若者のコミュニティー貢献を称えるのは、モチベーションを高めるのに効果絶大だ。 

大きなフリートで長年ユースを支えてきたトッパー級の皆さんにも話を聞いたが、そのうちの一人はなんとイアン・プロクターの息子さんだった! 

宝探しで各スタンドでもらえるオモチャを集め終わり満足した子どもたちと合流してからは、SUPでブリテン島を一周した水上安全啓蒙家の話やクルージングセミナーなどを聴き、海原へ冒険に繰り出したり自然と戯れたりするイメージを一緒に膨らませた。 

残念ながら今年も宝探しスタンプラリー参加者に抽選で当たる豪華賞品は総ハズレだったけれど、ディンギーショーはオモチャをもらえて面白い話が聞けて楽しい!という認識は子どもたちに定着したようだ。 

 

 

ブームにテントをはってキャンプができるTideway 12。テントは手作りだそう

 

 

テントのなかはこんな感じ。船内で調理や食事、寝泊まりもできます

 

 

自作専用マイクロクルーザー、パラドックス。ハードドジャーで雨天でも快適

 

 

最新のモス級、MD3エクスプローダー。空気力学的性能最大化のため、艇体がツルンとした形に

 

 

GPSデータを元に電動自走するヨットレース用ブイ、マークセットボット。カメラマンが乗り撮影することも

 

 

ユースでフォイリングのパスウェイ艇に使用されるナクラ15。フォイルはC型とZ型を付け替え可能

 

 

メインステージの進行は、ナショナルチームからプロセーラーに転向したハナ・ダイアモンドが務めた

 

 

毎年、前年のクラブ・オブ・ザ・イヤー受賞クラブをイメージしてデザインされるドリンクコーナー「クラブハウス」。2021 年は北ウェールズの海辺の村にあるポート・ディノルウィックSCが受賞。よって今年はシーサイド調

 

 

Tokyo2020コーナーでオリンピアンの顔ハメ看板をやってみた。江の島でのGBR選手の活躍は記憶に新しいが、何人かはSailGPやアメリカズカップに移行したり五輪を卒業したりで、大分入れ替わりがある模様。今回は3人くらいしか来ておらず、ミーハー的には少し残念だった

 

(文・写真=ソルト祥子、写真=RYAディンギー&ウオータースポーツショー、マーク・ジャーディン|text by Sachiko Suzuki Sault , photos by RYA Dinghy & Watersports Show, Mark Jardine)

 

月刊『Kazi』6月号に掲載されたものを再編集しました。バックナンバーおよび電子版をぜひ 

 

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ソルト祥子
Sachiko Suzuki Sault

英国のヨット環境を体感したいと2004 年に英国サウサンプトンに移住。育児が落ち着き、娘たちと共にセーリングに携わる時間を増やすべく、洗脳を試みる。本業は翻訳家、時々通訳。写真は、Roosterのブース、ハイクアウトシミュレーターで遊んでいるところ

 


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