北海道と沖縄で通信可能!?/アイコムのIPトランシーバー

2021.01.26

海上での無線通信といえば

一般的にトランシーバーというと、特定小電力無線機を指すことが多いが、こちらは通信距離が数百メートル程度で、海で使うには心もとない。

現在、プレジャーボートの無線通信で最も普及しているのが国際VHFだろう。その最大のメリットは、大型商船や漁船、港湾施設と共通するチャンネルを利用できるため、例えば、これから入港する港の管理者と連絡を取ったり、近くを航行する大型商船に針路について尋ねたりすることもできるし、トラブルに遭った場合には無線の届く範囲内にSOS信号を発することもできる。

国際VHFの運用には、海上特殊無線技士という国家資格(=人に対する免許)と、特定船舶局という無線局の開設手続き(=局に対する免許)が必要だが、現段階ではプレジャーボートにとって最適な通信手段であることは間違いない。筆者も、最もベーシックな第三級海上特殊無線技士の資格を持ち、5W出力の国際VHF無線機を常用している。

国際VHFには、プレジャーボート向けに割り当てられたチャンネルもあり、ヨットレースの運営などで使われることも多いが、通信可能範囲が、障害物のない状態で3~5マイル(アンテナの高さによって大きく異なる)ということで、レースの陸上本部などとの交信では不便を感じることも多い。

 

まったく新しい無線機
IPトランシーバー

そこで今回紹介するのが、IPトランシーバーという無線機。弊社月刊誌の営業担当のA部長が、「これアイコムさんから借りてきたんですけど、どこでも通じてスゴイんですよ!」と雄弁に持ってきてくれたのだが、無線にそれほど詳しくない筆者は内容が理解できず、とりあえず持ち帰ることに。いろいろ調べて特徴をまとめたのが下の表だ。

 

国際VHF/IPトランシーバーの比較

 

携帯電話の電波を利用
通信距離は日本中!?

IPトランシーバーは、携帯電話網の普及によって生まれた、これまでの無線機とはまったく違う製品で、大手通信事業者の通信網を利用して、データ化した音声をやり取りするのが特徴。本機の場合は、NTTドコモまたはauのLTE回線を利用する。

つまり、携帯電話の基地局を経由するので、無線機が携帯電波の“圏内”にあれば、北海道と沖縄でも通信できることになる。先日、取材で神奈川県の三浦半島南部に出かけたときに、直線距離で30マイル(約55km)以上離れた自宅の家族と交信してみたが、拍子抜けするほどクリアな音質で通話できた。

ここで“通話”と書いたのには理由があり、あらかじめ設定した通信グループ内で、何人でも同時に発言できるのだ。従来の無線機と似た形と操作手順だが、言いたいことを言った後に発信ボタンから指を離して相手の応答を待つという、無線ならではのプロセスは必要なく、グループ電話感覚で利用できる。

 

【アイコム IP502H】
■サイズ:59(W)×95(H)×32(D)mm(突起物除く)
■重量:240g
■連続運用時間:約17時間
■防塵防水性能:IP67(没水可能)
■価格:オープン
詳細はコチラ

 

利用シーンを考えれば
便利に使える

もちろん、相手の連絡先が事前に同じ通信グループに設定されていることが通信の前提で、前述の国際VHFとはできることがまったく違い、その用途も大きく違ってくるはず。思い起こしてみると、相模湾、大阪湾、三河湾、博多湾など、多くのプレジャーボートが航行する海域で、近年、携帯電話の電波が届かなかったことは、ほとんどない。少し考えただけでも、トランスサガミヨットレースや大阪湾一周レースなど少し距離のあるヨットレースや、仲間と連れ立って行くクルージングイベントなどでは使い勝手がいいと想像できる。

無線の免許などがいらない一方、月額利用料(パケット使用料)がかかるので、使用頻度によってデメリットもあるが、レンタルでの使用がポピュラーなようなので、うまく利用してみたい。

 

別契約のIP無線動態管理サービスを利用すれば、端末の位置情報はもとより、渋滞情報や天候情報などさまざまな情報を統合し、スマホやタブレット上のウェブブラウザ上に表示させることができる。(画像はアイコム提供)

 

携帯電話の通話圏内なら、国内どこでも交信可能。今回は東京都と神奈川県、55km以上離れた距離で交信したが、まるで目の前にいるかのような通話品質だった。本州一周クルージングの際に、9割がた携帯電話が通じたという話を聞く昨今、活躍の場は広がるかもしれない。

 

(問)アイコムサポートセンター
フリーダイヤル:0120-156-313
https://www.icom.co.jp/

 

(文=Kazi編集部/中島 淳)

 

※この内容は月刊『Kazi』2021年1月号に掲載されたものです。この号の特集は「キャビンライフは冬の楽しい!――快適船内生活のヒント」と題し、船内での電源確保のアイデアや便利な調理器具など、さまざまなテーマを収載しています。バックナンバーのお求めはこちら。電子版もご利用いただけます。

 


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