
若いセーラーが卒業後もセーリングを続けられる環境を実現したい──そんな思いを持つセーラーたちが中心となって、2月7~8日の2日間、真冬の北九州・新門司で、実戦形式のクリニックが初めて開催された。
その名も「FE28R SAILING BOOT CAMP in SHINMOJI 2026」(以下、FE28Rブートキャンプ)。どこかの連盟やクラス協会が主導したわけではなく、現状に対して危機感を持ったセーラーたちが動いたという点は何より大きなポイントだ。
FE28Rは、大きなジェネカーを持つ現代的なキールボートで、ハイパフォーマンス化のトレンドにも合っている。全長は28フィート、乗員は6人、艇体重量1,300kgに対して700kgのバラストを持ち、キールボート未経験のセーラーでも比較的扱いやすい。
ECLエージェンシーは、FE28Rの新艇6艇を新門司マリーナに導入し、次世代のセーラーが体一つでセーリングできるような育成環境の実現を描いている。これだけの数、そして艇体もセールも同じコンディションのボートがそろう環境は、国内では例がない。

昨年11月に開催された「ECLエージェンシーカップ2025 新門司マリーナヨットレース」で、35歳以下がエントリーできるU35ファーイーストクラスが設置され、新門司マリーナ(ECLエージェンシー)が所有する6艇のファーイースト28R(FE28R)に、OBやOGを含む6大学のU35セーラーが乗り込み、ワンデザインクラスでの白熱したレースを展開。その反響は大きく、すぐさま今回のFE28Rブートキャンプが企画された。
そのコンセプトは、「単に若手セーラーを対象にしたイベントや体験型のクリニックというわけではなく、“勝つためのセーリング”に振り切った内容」だと、主催者でイベントの発起人でもある藤田武己さん(ECLエージェンシー)は話す。
参加チームは、インビテーション方式を採用。各水域で精力的に活動しているU35セーラー/チームに声がかかった。今回招待されたのは、慶應義塾大学(混合)/チームPapillon、九州大学/チーム帆友会A、同/チーム帆友会B、同志社大学/チーム若鯨、日本経済大学/チームEnterprise Lilyの5チーム。
迎える講師陣は、2025年全日本ミドルボート選手権優勝艇〈夏子〉のオーナー/スキッパーであり、同年のNYYCインビテーショナルカップではスキッパーとして日本代表を率いた舩澤泰隆さん(JSAF副会長)、そしてモス級全日本チャンピオンであり、NYYCインビテーショナルカップのタクティシャンを務めた後藤浩紀さん(SAILFAST代表)と、紛れもない現役のトップセーラーが名を連ねる。参加5チームに加え、講師たちも同条件のFE28Rで海に出るという、完全な実戦形式でのプログラムが用意された。

トップセーラーとのレース形式での走り合わせに重きを置き、さらには海上では動画を撮影。ハーバーに戻ってからは、その動画を見ながら記憶の新しいうちに座学の時間が設けられるという、実に内容の濃い2日間だ。
初日(2/7)は昼過ぎから風がどんどん上がる予報となっており、艤装を終えると、すぐに海面に移動。まずは講師艇とともに、タッキングとジャイビングを繰り返す。基本のアクションを繰り返し、船がどのような挙動をするかを確実に把握することが大切。海外遠征などで初めて乗る船では、こういった作業は基本中の基本だという
走り合わせをした後は、さっそく実際にレース形式でのバトルがスタート。風速は12~14kt程度、冷たい雨が降りしきる極寒のコンディションだ。
厳しいコンディションではあったが、国内のトップセーラーとのガチンコ勝負は、U35セーラーを思い切り熱くさせたようだ。序盤こそ講師艇の横綱相撲の前に、ついていくのが精一杯というような状況だったが、時間が経つにつれて互角近くまで張り合うような場面も見られるようになった。艇やセールの性能に差がないワンデザインクラスゆえ、純粋に技術や判断の差が結果となり、ヒリヒリとした緊張感がこちらにも伝わってくる。
凍えるような海面での熱いひとときも、残念ながら約4時間ほどでハーバーバック(帰港)。風が一気に30ノット近くまで吹き上がってくるなか、運営&講師陣の適切な判断であったと感じる。
ハーバーに戻ると、撮影したての動画を見ながらのレクチャー。セーリングが終わって時間を置くこともないから、舩澤さんと後藤さんの言葉に、選手全員が食い入るように耳を傾けている。
質問形式の時間では、挙手する選手が途切れることはなく、2時間ほど経ったところでいったんお開きに。考えてみれば、トップセーラーに直接話を聞けるような機会というのなかなかない。貪欲に知識や技術を吸収しようとしている様子が伝わってきて、とにかく参加選手たちの意識の高さを感じるばかりだった。

技術的なことから取り組み方にいたるまで、トップセーラーへのさまざまな質問が続く。それに、船澤泰隆さん(写真)、後藤浩紀さんの両コーチが、現役トップセーラーの視点でわかりやすく回答。
そんななかで「結局は、それをやったら速いか遅いか(速くなるのか遅くなるのか)ということだけ」という、舩澤さんのメッセージは、実に真理を突くものだと感じた。
残念ながら、2日目(2/8)は朝から雪と強風で、洋上セッションは中止。急きょ前日に続く座学の時間が取られたが、やはりこの日も質問が途切れることはなかった。
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まったく新しい試みとして開催された、今回のFE28Rブートキャンプ。セーリングの時間はあまり取れなかったが、参加選手たちは一様に満足していた様子だ。それぞれが課題を持ち帰り、さらなるステップアップをすることだろう。
主催者(ECLエージェンシー、ピー・アール・エフ セイルオン事業部、JOSA)では、今後も継続的な開催を企画しているとのこと。特別な環境が整う北九州・新門司マリーナが、若手セーラーにとって特別な場所になるであろうことに期待が高まる。
次世代に夢をつなぐ仕掛け人、藤田武己さん(ECLエージェンシー|写真中央)。自身も外洋レースを中心にセーリング活動を続けており、本イベントの企画立ち上げから運営まで獅子奮迅の動きで大活躍した。左は船澤泰隆さん、右は後藤浩紀さん。50代の3人のセーラーが、次世代につなぐ取り組みに挑戦している。
(文・写真=安藤 健/舵社 取材協力=ピー・アール・エフ セイル・オン事業部)