「もしも1艇種だけを選ぶなら?」ACと五輪を制したチャンピオン、バーリングの答え/AC日記2025-7②

2025.07.23

エミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)をアメリカズカップ(以下、AC)3連勝に導いたあと、チームを電撃離脱したピーター・バーリング。その正式な理由は未だに謎に包まれているが、彼が出演したとある番組で、その真意の一端が推察される会話が交わされていたようだ。前編に引き続き、プロセーラーの西村一広さんによる考察をお届けする(編集部)

※本記事は月刊『Kazi』2025年7月号(6/5発売)に掲載された記事を再編集した後編です。前編はコチラ

◆メインカット

photo by Yoichi Yabe | 49er級の黄金コンビ、ピーター・バーリングとブレア・テューク。ピーターがETNZを離れてしまったことを嘆くNZの国内ファンは数知れない

 


ポッドキャストによる真意判断?

NZの古い友人にジョーイ・アレンというセーラーがいる。470級クルーとして世界選手権2位になったこともあるし、伝説的バウマンとしてACでも世界一周レースでも複数回の優勝経験がある。そのジョーイが、同じく伝説的元ボードセーラー、バーバラ・ケンドール(五輪メダル金・銀・銅)と組んで、定期的に旬の現役セーラーをゲストに呼んで明るくイジるポッドキャストがある。

今年3月下旬にはピーター・バーリングがゲストとして呼ばれて、ジョーイにイジられまくっていた。3月下旬といえば、ETNZがバーリングの離脱を公式発表するわずかに前のことである。バーリングの腹はもう決まっていただろうし、ジョーイにはその非公式情報がチームの誰かから伝わっていたかも知れない。

ジョーイはバーリングに最初の質問をした。「AC75、ボルボ70クラス、F50、49er級、そのほかなんでもいい、自分が自由時間にどれか1艇でだけセーリングできるとしたら、どれを選ぶか?」

バーリングはいろいろ抵抗して答えを出し渋ったが、最後に一言「49er級」と答えた。

ジョーイの二つ目の質問は「家が火事になった。家族は全員逃げてもう安全だ。消防士がやってきて、まだ大丈夫だから家に入ってトロフィーとかメダルのうち、どれか一つだけ取りに行くことを許可する、と言った。どれを取りに行くか? 」

ここでもバーリングは答えを出し渋ったが、最後に「金メダル」と答えた。自身も金メダルを持つバーバラが、「そうなのね……」と感に堪えたように反応した。それがジョーイの狙いだったのかは分からないが、今になって思えば、バーリングはその番組の中で素直な本心をさらけ出していたのかも知れない。

もう一つ、ジョーイは最後に際どい質問もした。今もETNZが陸トレに使っているタッチラグビーのメンバー選びの場面に話題を替えて、「グラント(ドールトン、ETNZのCEO)とレイ(デイビス)とディック(ぼくも知っているETNZの元バウマンで現在ショアクルー)の3人のうち2人を自分のチームに入れなければいけないとしたら、どの2人を選ぶか? 」

これにもバーリングは答えるのを渋ったが、最後に「レイとグラント」と答えた。バーリングがドールトンを選ぶと答えたのが本心かどうかは分からない。選んだ理由が「彼は意外と動きが速いんだ。(年齢が年齢なので)翌日歩けるかどうかは分からないけど(笑)」と、煙に巻いたような理由だったからで、「彼を信頼できるから」ではなかったから。

考え過ぎかなあ、オレ。

 

ETNZにドレイパー加入&次回開催地はイタリア・ナポリ!

5月14日と15日に、ETNZから二つの発表があった。一つは英国人セーラー、クリス・ドレイパーの入団とネイサン・アウタリッジのスキッパー昇格発表。

もう一つは、第38回AC開催地はイタリアのナポリ、開催期間は2027年春から夏に決まったとの発表。

随分前にナポリで同じ時期に開催されたワントンカップにバウマンとして出場したことがあるが、軽風に終始したレガッタだった。バルセロナとは大きく異なる風と海になるだろうから、新型AC75クラスの設計方針にも強く影響するはず。

詳報は次号(月刊『Kazi』8月号)にて。

 

ナポリで開催される第38回ACで、防衛艇を左右舷に分かれて操縦することになったネイサン・アウタリッジ(写真左、右舷ドライバー)とクリス・ドレイパー(左舷ドライバー)
左写真 photo by Ivo Rovira / America's Cup
右写真 photo by Felix Diemer for SailGP 

 

(文=西村一広)

 

※本記事は月刊『Kazi』2025年7月号に掲載されたものです。

月刊Kazi2025年7月号購入はコチラから。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

西村一広
Kazu Nishimura

小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


KZ バナー.jpg

ヨットレース

ヨットレース の記事をもっと読む