
英国プリマスのボートビルダー、ウィル・スターリングは自設計のデッキ長43フィートの木造カッター〈インテグリティ〉を建造。カナダのルネンバーグからアラスカのノームへ至る、氷河に閉ざされた6,000マイルに及ぶ北西航路を走破した(月刊『Kazi』誌2024年8月号~2025年4月号掲載)。今回はそのアナザーストーリー。北西航路を完走した〈インテグリティ〉は、温暖なアラスカ湾へゆったりと帆を揚げた(編集部)。
◆メインカット
photo by Will Stirling | アラスカ湾のグレイシャーベイ(Glacier Bay)国立公園の奥、氷河で覆われたジョンズ・ホプキンズ海峡を帆走する43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉
【短期集中連載】北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の大航海
①北西航路の歴史
②砕氷帆船の建造
③アイスランドでの5年間
④冒険の準備
⑤ルネンバーグからグリーンランドへ
⑥最初の夜間航海
⑦グリーンランドの野生動物たち
⑧悪魔の親指で過ごした1週間
⑨129人が失踪した湾
⑩陰鬱なる“飢餓湾”
⑪冒険の果てに広がったオーロラの世界
〈Integrity〉諸元
デッキ長:43フィート
水線長:37フィート
喫水:7.6フィート
メインセール:675平方フィート
2024年6月末、北西航路の横断を終えノーム港(Port of Nome)に係留した〈インテグリティ〉と、久しぶりの対面を果たしたクルーたち
浅瀬で出合ったラッコ
フルークアップするクジラ
フォールス・パスを越えアラスカ湾へ
アラスカ・ノーム港(Port of Nome)での越冬を終えた43ft木造ヨット〈インテグリティ〉は、私が船を後にした時とまったく同じ場所にしっかりと浮かんでいた。港内は冬期に凍結するため、その間、船はよく守られた安全な場所に上架されて、雪に覆われていた。船を揚げた時の作業は、普通のトラベルリフトを使うやり方とはずいぶん異なっていた。船はトレーラーに載せられ、砂利の敷かれたスロープをキャタピラー社製の除雪車に引かれて上がってきたのだ。その除雪車の姿は、橇(そり)を曳(ひ)くためによく訓練されたパワフルなハスキー犬のチームのように私には見えた。
振り返ってみれば、ウィリアム・スコアスビーとクルーたちは北極の海で、氷塊が流れる中、排水量300t超の船を傾け、竜骨の修理をなんとかやりとげた。だから〈インテグリティ〉を陸に引き揚げることなどは、このノーム出身の創意にあふれた男には簡単なことだろうと私は確信していた。彼らはこのあと、海底で金塊を探し集めて回るという、もっとずっと厳しく、潜在的には大きな利益を得られるはずの仕事に戻ることになっていた。
私たちが登山の目標としていたケナイ半島(Kenai Peninsula)とグレイシャーベイ(Glacier Bay)の山々に行き着くためには、まずアラスカ半島で費やす時間を倍にして、アリューシャン列島を西進する航程は、そのあとの探検に回さなければならなかった。
比較的穏やかな天候のもと、氷塊に遭遇することもなく南に向かって6 日間の航海を続け、私たちはフォールス・パス(False Pass)と呼ばれる海峡にたどり着いた。狭い水路の通過には絶好のコンディションだった。私たちは速い潮流の中を浅瀬やラッコの間を縫うように進み、間もなくフォールス・パスの集落の小さな泊地に入った。
ノーム港からフォールス・パスまでの航程は、陸地から遠く離れた外洋を長く走る航海が続いたが、私たちはそれを無事に終えて、素晴らしいハーバーに安全に落ち着くことを得た。その港には魚の加工場があった。そこではWi-Fiがつながるというので、久しぶりに友達や家族へメッセージを送った。ここまで来ると、“伝説の” 太平洋はもう手の届くところとなる。そこで、私たちは日焼け止めクリームの収納場所を確認し、日焼け跡を格好良く見せる作戦を考えることに時間を費やした。
フォールス・パスを無事に通過はしたものの、海峡南側の湾の天候はかなり荒れていた。しかし大きなうねりは入っていなかったので、私たちはアロハシャツや麦わら帽子や日焼けオイルを片付け、仕舞い直して、落水者救助のドリルを復習することにした。演習は順調にいったのだが、この時海上に突然濃霧が立ち込めて、私たちはあわやダンブイを失いそうになった。
(次回へ続く。翻訳/矢部洋一)
グリズリーとの邂逅
魚を捕食していたグリズリー。日中、船上から撮影 フォールス・パス通過の翌日、下草の中でのんびりしているハイイログマ(グリズリー)を船上から視認。次の朝、アラスカ上陸に際し、テリー叔父は自己防衛のため散弾銃を持っていくと言い張った(私はノームで自分のライフルを売ってしまった)。クマが作ったと思われる細い道をたどると、私たちは80ヤード先にグリズリーを発見した。テリー叔父は銃を構えた。すると、そのクマは向きを変えて闇の中へと逃げ去った……
(文・写真=ウィル・スターリング 翻訳=矢部洋一)
text & photos by Will Stirling, translation by Yoichi Yabe
※関連記事は月刊『Kazi』2026年2月号に掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ