みんなで造るみんなの船! |逗子開成中学校 OP級建造記①製作編

2023.08.12

恵まれた立地、独自のカリキュラムと長年培われたノウハウで、ほかにはない“海洋教育”を実践している逗子開成中学校・高等学校。その特徴の一つである、中学1年生のOP級ヨット建造の授業へおじゃました。

そこで見えてきたのは、ヨットを通じて自然に親しむ喜びや怖さを知り、広い視野を得て成長していく子どもたちの姿だった。


 

逗子海岸に直結! 海辺の学び舎  

逗子開成中学校・高等学校は、神奈川県逗子市にある中高一貫の男子校。中学と高校で合わせて1,600人以上の生徒が学んでいる。逗子海岸の目の前という立地と、それを活かした特徴的な教育に定評があり、毎年受験生やその保護者からも人気が高いという。

 

逗子海岸近くの閑静な住宅街にある逗子開成中学校・高等学校

 

創立から120周年を迎える伝統校でありながら、ほかにはない“海洋人間学”なる珍しいカリキュラムを実施しており、その柱の一つがOP級ヨットの製作と帆走実習なのだとか。

中学1年生の生徒たちが、ヨットを自分たちの手で造り、それに乗る。話を聞いただけでなんだかワクワクが止まらないが、あくまでも授業の一環として行われているのだ。しかし、本当に中学生に船が造れるのだろうか。  

校舎に隣接する同校の施設、海洋教育センターの地下にある艇庫にうかがうと、OP級のヨットがたくさん収納されていた。この施設は逗子海岸の砂浜へ通路で直接つながっており、中学ヨット部はここから艇を出して逗子湾で練習を行うという。とにかく恵まれた環境だ。

 

毎年5艇ずつ建造するOP艇を8年分保管している艇庫

 

パーツから手作りの木造艇  

艇庫の傍らの作業場に、中学1年生が製造中の船が置かれていた。いわゆる骨組みだけの状態。この日は1年B組がガンネルの組み立て作業を行うという。

同校では、技術・家庭科の単元の一つとしてヨット製造をカリキュラムに取り入れているため、技術・家庭科の先生と、ヨット製造専門の先生2人が指導する。技術・家庭科担当の内田伸一先生に聞くと、艇のパーツはすべて木材から先生たちが切り出して加工しているという。

 

作業台の上には、まだ骨組みだけのOP艇が5艇並んで置かれていた

 

センターボードは特別仕様で、通常のOP級のものよりも短めに作られている

 

ちなみに基本の図面はOP級だが、作りやすいようにハルの長さや幅、カーブなどをアレンジしているそう。いわばOP級の逗子開成バージョンで、これを30年造り続けているという。FRP製が主流となった現在でも木造艇が現役で活躍している。  

それにしても驚くべきはその数。1年に5艇を造るのだとか。1クラスを5班に分け、1班が1艇を担当する。これを8クラスで分担しながら作業していくのだ。

いくら小さなディンギーだとはいえ、木材からパーツを一つ一つ作って組み上げ、研磨や塗りを繰り返す膨大な作業を考えると、生徒たちだけでできるものではない。その陰には先生方のご苦労があるようで、内田先生いわく「1コマの授業で生徒たちに作業させるための準備に、1日半もかかることがある」そう。

 

パーツはすべて先生方が木材から切り出す。作業場の片隅に材料となるラワン材が積まれていた

 

実際にこの日の作業はガンネルを組み立てることだが、ガンネル用のラワン材を寸法通りに切り出して加工し仮組みするところまでを先生方が準備し、生徒たちは仮止めされているネジを外して接着剤を塗り、再び組んでネジで止める作業を行う。

 

まずは仮止めされているネジをゆっくり外していく

 

班のみんなが協力して作業を行う。木材を折らないように慎重に……

 

生徒たちが作業できる部分は限られているが、「ちゃんと接着剤を塗らないと、あとで困るのはきみたちだよ」などと先生から声掛けされると、生徒たちは真剣な表情で取り組む。「実際に人が乗って海に出るものだからちゃんと作らないと」など、生徒たちも考えながら作業しているようだ。

 

斜めにカットした割りばしを使って、エポキシ樹脂の接着剤をちょうどいい厚さに塗っていく

 

接着剤がはみ出していないか入念にチェック

 

接着剤を塗ったら再び木材を取り付けてネジで止めていく

 

歴史があるからこその海洋教育  

そもそも、逗子開成中学校でヨット建造が始まったのは、どのような理由からなのだろう。同校の小和田校長にお話をうかがってみると、学校が歩んだ歴史を知ることができた。  

 

逗子開成中学校・高等学校 小和田亜土 校長

 

逗子開成中学校でヨット建造が始まったのは1985年ごろ。同校は1973年から中学校の生徒募集を停止しており、さらに山岳部の八方尾根遭難事故などで学校が混乱したこともあって、やっと生徒募集を再開できたのが1985年だった。その目玉として始まったのがヨット建造や遠泳なのだという。

 

この日はヨット制作最後の授業。生徒たちの前にはピカピカに塗装されたOP艇が並ぶ

 

歴史的には明治時代にボートの遭難事故などもあった同校は、「1985年のスタート時から安全を肝に銘じてやりましょう、と教員が意識しています。生半可な準備や気持ちではだめだ、ということが今日まで続いてきています」と、小和田校長が語るように、歴史があるからこその覚悟で海洋教育に取り組んでいる。

幸い、同校には70年を超える実績を持つヨット部の指導ノウハウがあり、小型船舶免許を持つ教員も多いため、安全に実践できるわけだ。

 

ネームプレートに自分の名前を記入するときには、皆が1文字1文字丁寧に書き記しているのが印象的だった

 

自分たちが造った船を前にして記念にパチリ。次はいよいよ進水式だ

 

「逗子開成中学校 OP級建造記 ①製作編」はここまで

次回「②進水式編」も近日公開予定です。お楽しみに!

 

(文=山田祥子/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)

※この記事は月刊『Kazi』8月号に掲載されたものを再編集しています。バックナンバーおよび電子版をぜひ

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