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ヨットレース
白石康次郎が振り返るヴァンデ・グローブ/vol.1

2021.03.17

アジア人として初めて、単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」を完走した、DMG MORIセーリングチーム白石康次郎さん。Kazi編集部は、帰国した白石さんにインタビューを実施しました。数々の苦難に見舞われた今大会を、白石さんはどのように走り切ったのでしょうか。

 

■夢のような物語はまさかの連続

――見事に完走を達成しました。

まさかこんな物語になるとは思っていませんでした。予想以上に厳しいレースでした。
最初は、中古艇でなんとか再スタートを切ろうと思っていたんです。そこで幸運にも、DMG森精機の森 雅彦社長と出会って、新艇を作ろうということになりました。それは僕の夢でした。新艇を作って、ワークスチームを作って。まるで夢のような話ですね。

いざチームがスタートしてみたら、(自分自身の)心臓の大手術で半年間練習ができませんでした。心臓が治ったと思ったら、次は新型コロナウイルスでまた練習ができなかった。

前回大会(2016-2017)でリタイアして、まさかこんなワークスチームと新艇を持てるとは。まさか心臓の手術をするとは。まさかコロナが流行るとは。スタートしたら、まさかメインセールがズタズタになるとは。まさか完走するとは。まさか16位まで順位を上げられるとは……。まさかの連続でしたね。

 

2020年11月8日、自身2度目のヴァンデ・グローブのスタートを切る、〈DMG MORI Global One〉白石康次郎さん
photo by Yoichi Yabe

 

■メインセールが真っ二つ

――メインセール破損の第一報をもらったときは、どうなることかと思いました。

普通はあきらめますね。上のほうで真っ二つなんて、僕もあれほど破ったのは初めてでした。バテンは4本折れました。スタートから6日たっていて、レースビレッジに戻っていたら間に合わない距離でした(※1)。

何がつらいかというと、あの時点で船内にある材料だけで直す。直した状態で世界一周を続けるということ。それは非常に厳しい決断でした。

 

※1 フランスのレ・サーブル・ドロンヌ沖のスタートラインは、10日間開かれている。そのため、スタート後にトラブルが発生して引き返し、修理を行って10日以内に再スタートを切ることは可能。

 

――誰も止めなかったから修理したとのことですが、もし誰かが止めていたら、従いましたか?

従いたいですね(笑)。でもわからない、どうしたかなあ。誰も止めなかったね。
みんな変な幻想を持っているんですね。「白石さんだったらなんとかやる」っていう間違った幻想。で、僕がやっちゃうからダメなんだよね(笑)。また実績を重ねちゃった。

レースを続けたのは、あきらめるには早かったからです。船体とマストは無事でしたから。
僕はヨットマンである前に船乗りです。危険を冒してまでやってはいけないという教育を受けている。マストや船体にトラブルがあって、SOSを発するような状態だったら港に帰ります。でも今回はメインセールの破損だから、最悪ジブだけでいつでも入港できました。

まあ、行けるところまで行こうと思ったんです。勘違いしてほしくないのは、これは船が沈むところまで行こうと、最後はSOSを出せばいいという選択ではありません。自力で港に入れるから、行けるところまで行こうということです。

 

破れたメインセールを降ろしたときの一枚
photo by Kojiro Shiraishi / DMG MORI Global One

 

――メインセールを直している間に、自らをどうやって奮い立たせましたか?

奮い立たないよ、しょぼんとしてたでしょ。「よく心折れないですね」って言われるけど、ズタズタですよ。さすがの僕でもビリはつらいですからね。

当初、修理は3日かかる予定でしたが、6日かかりました。あの状態で世界一周する。もう1回破ったら終わり。材料はもうないんです。修理中は凪(なぎ)が結構続いて、ビリ決定だから丁寧に直そうと思いました。朝から晩まで直して。夜はしっかり寝ました。

 

――スタート前、コーチのビルー(ローラン・ジョルダン)に1日1回は船をチェックするようにと言われてましたね。

レース中、1日1回以上はチェックしました。飛ばしているときも、1回船を止めます。特にフォイル艇は音がうるさいから、衝突時の音や何かが壊れても聞こえないんです。だから船を止めて、デッキを回ってチェックしました。音を頼れない分、目視で。

 

■「完走」は途方もない

――修理後はどのように走ったのでしょうか。

何時間寝るかなどは風に合わせてですね。寝れるときに寝る。

他の船と違うのは、メインセールを破ったら終わりということ。そこで「完走」という目標はなくなった。まず無理だと。途方もないことです。

で、どうしたかというと、まずは赤道を越えてみようかと。越えるんだよね。じゃあ次はケープタウンまで行ってみるか。その頃から前の艇を抜かしだすのかな。メインセールを1回降ろしてみたら、全然傷んでなかった。その次はオーストラリアくらいまで行けばいいやと。で、また前の艇を抜かして。
あ、これいけるな。と思って。でもまだ油断はしてません。ホーン岬でやられるかもしれないから。ホーン岬を越えて「あ、これ奇跡起きるかもな」と思ったんです。

安心してたら、森社長から「白石くん、目標は『完走』だ。それと、あと2、3艇いけるんじゃない?」と連絡をもらいました(笑)。まあ、抜かしましたけど。そういうふうに走っていました。

 


2020年11月27日、〈DMG MORI Global One〉は赤道を通過。スポンサーでもある「八海山」の日本酒で乾杯した
photo by Kojiro Shiraishi / DMG MORI Global One

 

インタビューはvol.2に続きます。また、このインタビューの内容は4月5日発売の『Kazi5月号』に掲載予定です。

 

(文=Kazi編集部/森口史奈 トップ写真=舵社/山岸重彦)

 


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