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ヨットレース
なんナンだ、これは・・・な展開/ヴァンデ・グローブ実況

2021.01.15

高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況(2021/1/15 金曜日配信)

 

■追いつき、追い越され

先週(1/8)のこの記事『勝負の第4幕へ』では、「勝負の3日間が始まる」と書いたが、まさにそれ。

1月7日 21:00(UTC)のポジションがこちら

 

これは先週掲載した図だが、ここでヤニック・ベスタベン(47歳/男性/フランス)の〈Maître CoQ IV〉が岸寄りにいるのは、500マイル近く先行していた故に導き出された、 "その位置にいる艇" にとっての最適コースがこれだったということ。

日本でいえば、三浦半島から小笠原まで500マイル……と考えると、500マイル近く違う場所にいれば最適コースは当然異なる。

 

そして、ここから2日後の1月9日 21:00(UTC)がこちら

高気圧から吹き出す南西の風に乗って沖寄り(東側)から北上する追走艇団が追い上げている。

西へ出てしまった〈Maître CoQ IV〉としては、目の前の前線を乗り越えて一足先に貿易風帯に入れればなんとか、というところだが……。

 

1月11日。前線を越えても風は安定せず。

 

この図では、岸沿いに風が残ってはいるようだが真上りで。

予報ではこの後、沖側から東寄りの風が入るであろうとされ、沖出し有利と言われている。
〈Maître CoQ IV〉としてはどうすればいいのか。悩みの航跡が赤くみてとれる。

 

そして、1月13日には並ばれ、追い抜かれてしまう。

 

そしてこちらが最新(1/14 21:00 UTC)のポジション。

 

なんとまあ、劇的な展開か。

 

公式トラッキングマップはコチラ

 

■ドラッグレース

貿易風は赤道まで続いている。その先の赤道収束帯も活動は弱く、つまりそのまま通過できそうで。

コースの選択肢はない。この後8日間は、スターボードタックでの1本コースとなりそうだ。

 

となるとスピード競争。各艇のポテンシャルがキーポイントとなる。

 

フォイル艇とノンフォイル艇では当然スピードが違ってくるし、フォイル艇でも最新の第2世代フォイルはより大きくパワフルで、前回(2016-2017)用に建造された第1世代のフォイル艇よりも速いとされている。

その分、第2世代フォイル艇はトラブルも多く、現在先頭集団に残っている〈APIVIA〉、〈LinkedOut〉ともに、100%の力を発揮できそうもない。

以下、先頭集団を走る各艇の現状をまとめてみた。

 

■〈APIVIA〉

シャルリー・ダラン(36歳/男性/フランス)の〈APIVIA〉は最新世代のフォイル艇で、同じフォイル艇でも第1世代の〈Maître CoQ IV〉と比べてよりパワフル。実際今はずっと良いペースで前に出ている。
とはいえ、そのパワフルなフォイルの取り付け部である船体側のフォイルケースが壊れ、応急修理をしただけの状態だ。シャルリー・ダラン本人は、「あの時リタイアにならなかっただけでもラッキー」と言っているが、ここまであまり無理せず走ってきたようで、この後、全速で走り続けるとどうなるか……。
photo by Cpl Phil Dye / BFSAI

 

■〈LinkedOut〉

トマ・ルイヤン(39歳/男性/フランス)の〈LinkedOut〉も最新世代のフォイル艇だが、こちらはポート側のフォイル付け根付近に大きくヒビが入っており、負荷を減らすために先端2mほどを切り落としている。
つまり、スターボードタックだと全速が出ない。実際ジリジリ遅れている。そもそも、付け根のヒビはそのままのようで、この先、赤道無風帯を抜けて北半球に入ると、さらに強い北東の貿易風帯に入る。つまりスターボードタックのまま。……と不安は大きい。
photo by Olivier Blanchet / Alea

 

■〈BUREAU VALLEE 2〉

ルイ・バートン(35歳/男性/フランス)の〈BUREAU VALLEE 2〉は前回の優勝艇〈Banque Populaire VIII〉。つまり、第1世代のフォイル艇で最速ということ。
マストトラックの修理のために遅れをとっていたが、フォイル自体は完璧……と本人は言っている。第2世代艇に比べればサイズは小さいが、全速で走れており、実際良いスピードだ。この後も、無理が利きそうだし。乗り手の経験値も、現在の先頭艇団の中では一番か。
photo by Bernard Le Bars / Alea

 

■〈Maître CoQ IV〉

ヤニック・ベスタベン(47歳/男性/フランス)〈Maître CoQ IV〉も第1世代のフォイル艇で、コースミス……というより、先頭艇の不運で追いつかれ追い越されてしまったが、ここまでの走り自体は〈APIVIA〉に走り負けてはいなかったわけで。
追いつかれ、同じような海面を走っている今でも、なぜかズルズル遅れているが、艇になんらかのトラブルがあるわけではないもよう。貿易風帯といっても風は安定せず、頻繁に来襲するスコールのたびにセールのトリムをしつつ、寝る暇なく走り続けているようだ。
追いつかれるまでの苦悩の1週間で精神的にもまいっているところに、この安定しない貿易風でヘコんでいるのか。
ペースが戻れば、上記3艇と同じスピードで走れるはず。これまでそうしてきたんだから。
おまけに、〈PRB〉の救助に関わる10時間15分の救済タイムを持っている。距離にすれば150マイルくらいになるか。〈APIVIA〉からすれば、同じコースをついてくる相手を150マイル以上引き離すのは、なかなか難しいのではなかろうか。
photo by Boris Herrmann / Seaexplorer - YC de Monaco

 

■〈GROUPE APICIL〉

ダミヤン・セギャン(41歳/男性/フランス)の〈GROUPE APICIL〉はノンフォイル艇。ということで、フラットな海面に15ノット程度の安定したリーチングという条件では、どうしてもフォイル艇にはかなわない。1本コースのスピード勝負では、戦略的にどうこうしようもないし。
ただし、この先赤道を越えると北東の貿易風になり、これが片上りになると、非対称断面のダガーボードが俄然力を発揮するかも。
photo by Boris Herrmann / Seaexplorer - YC de Monaco

 

■〈SEAEXPLORER - YACHT CLUB DE MONACO〉

ボリス・ハーマン(39歳/男性/ドイツ)の〈SEAEXPLORER - YACHT CLUB DE MONACO〉は、2016年進水の第1世代のフォイル艇だが、最新デザインのパワフルなフォイルに改造されている。ここまでセールや艤装で細かいトラブルはあったが、フォイル自体はノートラブル。となると、先頭艇団の中では唯一、最新世代のパワフルなフォイルを100%活かして走れる艇ということになる。
加えて、〈PRB〉捜索での救済タイム6時間もあり。本人もやる気十分。実際、みるみる追いついてきている。
photo by Jean-Marie Liot / Alea

 

……と、新旧世代の違うIMOCA60が、2カ月以上走り続け、それぞれ異なる条件で、同じテーブルの上でゲームを展開している。

これはまたしても目が離せない展開だ。

 

昨夜(日本時間)公開された動画『Vendée Live #68 [EN]』で、〈LinkedOut〉のチームマネージャー、Marcus Hutcinsonが他艇も含めた技術的な解説をしている。字幕が付いていないので意味が今一つ分からず。後ほどしっかり見て筆者のサイト、「ヴァンデ・グローブ2020 レース実況まとめページ」でご紹介したい。

 

 

■コージローも追う

白石康次郎の〈DMG MORI Global One〉も、1月13日 17:03(UTC)、ホーン岬を回航した。

海はかなり時化ていたようだが、自身4度目ということで余裕のホーン岬回航だ。

 

 

 

現在20位の〈DMG MORI Global One〉。

この後、すぐ前を走るディダック・コスタ(39歳/男性/スペイン)の〈ONE PLANET ONE OCEAN〉、ステファン・ルディレゾン(44歳/男性/フランス)の〈Time For Oceans〉をかわせば、10位台が見えてきた。

 

(文=高槻和宏)

※「舵オンライン」では、毎週金曜日に「高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況」をお届けしています。

 

●Vendée Globe公式サイト
https://www.vendeeglobe.org/en
●レースのトラッキングサイト(現在位置)
https://www.vendeeglobe.org/en/tracking-map


高槻和宏(たかつき・かずひろ)
1955年生まれ。神奈川県在住。ヨット、ボート、カヌーなど、ジャンルを問わず海を遊ぶマリンジャーナリスト。月刊『Kazi』の人気筆者として、長年さまざまな記事を手がける。『虎の巻』シリーズ、『ヨット百科』など、ヨットに関する著作多数。


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