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ヨットレース
トラブル、トラブル、トラブル。。。/ヴァンデ・グローブ実況

2020.11.12

高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況(2020/11/13)

単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ 2020-2021」は、11月8日にフランスのレ・サーブル・ドロンヌからスタート。
南の風、11ktから13kt、晴れ。絶好の天候の中、艇団は西へ──ヘディング約250度の快適なセーリングだ。

このコンディションでは、最新のフォイル艇が艇速で勝る。
最も新しい2020年5月進水の〈CORUM L'EPARGNE〉、2020年1月進水の〈L'OCCITANE EN PROVENCE〉が飛び出し、他の2019年、2018年進水の新艇群がこれに続く。

ニコラ・トルセルが乗り込む〈CORUM L'EPARGNE〉
photo by Jean-Marie Liot / Alea

 

■アゾレス高気圧が……無い

風は予報通り右に振れ、先頭艇団から北に落とされていく。振れきったところでタックを返し大西洋へ……という戦略だろうが、後続艇団にはまだ南寄りの風が残った。
ビスケー湾を出て大西洋に出る頃には、位置的に追いついた後続艇団も入り交じっての混戦模様となった。

 

風はいったん落ち、再び南から入る。
スタートから2日と6時間が過ぎた時点の各艇ポジションが上の図↑だ。
赤い点線がだいたいのコースなので、ほぼ真上りとなる。

本来ならば、北大西洋アゾレス諸島付近に常在するアゾレス高気圧から時計回りに吹き出す北風に乗って西アフリカ沿いに南下するところだが、今年はそのアゾレス高気圧があるべき場所に低気圧が居座っている。

 

上の図↑は、スタートから3日と12時間後の北大西洋全体の画像。
本来ならば、この低気圧のあたりにアゾレス高気圧が定常しているはずなのだが。高気圧はずっと西の海上に遠ざかっている。
となると、ヴァンデ・グローブ艇団にとって、最短コースはアップウインドとなる。

 

そして下の図↓は、同じ艇団のポジションで24時間後の予想気圧配置を重ねたもの。

低気圧の位置はほとんど変わらず、勢いだけ増し、トロピカルストーム「Theta」となったもよう。

ここで各艇の選択肢は2つ。
大きく西へ舵を切り、低気圧の西側を通るか。ならばダウンウインドになる。
あるいは、そのまま南下しアップウインドの中を突っ切るか。
ここが思案のしどころだ。

 

■トリポン、艇団を離れる

スタートから2日と10時間が過ぎたあたりで、優勝候補の一角を占めるアルメル・トリポン(45歳/男性/フランス)が乗る〈L'OCCITANE EN PROVENCE〉のヘッドセール(J3)ハリヤードをロックするフックが故障。ロックを解除できなくなったのではなく、突然セールが降りてしまったようだが。
海上での修理は無理とみて、スペイン、ア・コルーニャ(La Coruna)の入り江にアンカリングして自力で直すべく艇団を離れる。ア・コルーニャまでは約350マイルあり、修理が上手くいったとしても、これを取り戻すのは大変そうだ。

いったん艇団から離れての修理を決断したアルメル・トリポン/〈L'OCCITANE EN PROVENCE〉
photo by Jean-Marie Liot / Alea

 

■〈PRB〉手堅く水漏れ修理完了

一方、ケビン・エスコフィエ(40歳/男性/フランス)の〈PRB〉は、船内に大浸水。

 

フォイルのバルブ不良とのことだが、ちょうど風が弱かったところでタックを返し、落ち着いて修理完了。
とはいっても、これだけ水浸しになっているのに、動画を撮っている余裕はさすが。

ケビン・エスコフィエは、「ボルボ・オーシャンレース」でも「2014-2015」、「2017-2018」と、〈東風〉のクルーとして出場。優勝を経験している。こうしたトラブルを自力で解決するのは、お手のものということだろう。

 

■〈CHARAL〉、レースビレッジへ戻る

西寄りを航く艇団は前線を通過。風速40~50ktと、かなり吹かれたようだ。

11月11日の午後遅く、ジェレミ・ベユー(44歳/男性/フランス)の〈CHARAL〉に大きなダメージが発生した。

シート(おそらくメインシート)のブロックがコナゴナに壊れカーボンの破片が飛び散る。これはすぐに修理できたが、その後すぐにフォイルに未確認の浮遊物(UFO)が当たり、右舷のラダーを破損。タックしたところ、突然バックステイが切れる。おそらくブロックが壊れた際に飛散したカーボンの破片で切れたのではないか、とのこと。

と、連続したトラブルで艇は大きなダメージを受け、このままでは到底レース続行は無理だ。修理にはラダー交換などの "外部の援助" が必要になるため、いったんスタート地点レ・サーブル・ドロンヌに引き返すことになった。
スタートラインは、スタートから10日間は開いたまま。なので、修理して、再スタートということになる。

4回目のヴァンデ・グローブ参戦となるジェレミ・ベユー
photo by Olivier Blanchet/Alea

 

ジェレミ・ベユーは、前回の「ヴァンデ・グローブ 2016-2017」では3位。今年7月に開催された「ヴァンデ・グローブ」の前哨戦「Vendée-Arctique-Les Sables D'olonne」では優勝と、好成績を挙げている。
今回も優勝候補の1人だったが、ここからレ・サーブル・ドロンヌまで600マイル以上引き返し、首尾よく修理を終えレースに復帰できたとしても、優勝はおろか上位入賞はまず無理だろう。
とはいえ、最後まで諦めない姿はさすが。

 

諦めないといえば、J3のハリヤードロックのトラブルで、修理のためにア・コルーニャの入り江を目指していたアルメル・トリポンは、洋上でトラブル解消か、再び艇団に復帰。順位は大きく落としたが、レースは続行中。
諦めない男はここにもいた。

再び戦線に向かうアルメル・トリポン。艇上からのワンショット
photo by Armel Tripon / L’Occitane en Provence

 

■白石康次郎、疲労困憊

スタートしてからまだ4日。
フィニッシュラインはあまりにも遠い。
ここで頭一つ前に出ることよりも、今は艇団の中で無事に南下していくことのほうが重要だろう。
白石康次郎(53歳/男性/日本)の〈DMG MORI GLOBAL ONE〉は、まさにそんな走りだ。

11月10日、艇上の白石康次郎
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One

 

 

昨日の「ヴァンデ・グローブliveTV」、25:45あたりから白石康次郎が登場。スタート直後の荒天に、かなり疲れているようだ。

 

最後に、11月13日朝の最新ポジションがこちら。

 

スタートから4日と8時間。優勝候補筆頭のアレックス・トムソン(46歳/男性/イギリス)が先頭に立った。
低気圧の東を抜けようとしているのか? 中心付近のすぐ西をかっ飛ばそうというのか?

ここからの2日間が前半のみどころになりそう。
トラッキング画面から目が離せない。

(文=高槻和宏)

※「舵オンライン」では、毎週金曜日に「高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況」をお届けします。お楽しみに。

 

●Vendée Globe公式サイト
https://www.vendeeglobe.org/en
●レースのトラッキングサイト(現在位置)
https://www.vendeeglobe.org/en/tracking-map


高槻和宏(たかつき・かずひろ)
1955年生まれ。神奈川県在住。ヨット、ボート、カヌーなど、ジャンルを問わず海を遊ぶマリンジャーナリスト。月刊『Kazi』の人気筆者として、長年さまざまな記事を手がける。『虎の巻』シリーズ、『ヨット百科』など、ヨットに関する著作多数。


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