世界一周の最速記録を競う/ジュール・ベルヌトロフィー

2021.02.07

単独無寄港無補給世界一周レース「ヴァンデ・グローブ」が盛り上がる中、世界一周をめぐるもうひとつのイベント、「ジュール・ベルヌトロフィー( Jule Verne Trophee )」が行われている。
フランスの小説家であるジュール・ベルヌの海洋冒険小説『80日間世界一周』にちなんで開催される、ノンストップで世界一周の最短記録を狙うというスピードトライアルだ。レースとは違い、各チームがベストのスタートタイミングでトライアルにチャレンジするものだ。開催年の8月1日から翌年の7月31日という期間内で、フランス西部にあるウエサン島クレアック灯台と、リザード灯台をまたぐラインをスタートし、世界一周後にまたこのラインを通過すれば、フィニッシュとなる。距離は約29,000マイル。そして期間中は何度でもスタートラインを通過し、このスピードトライアルに再チャレンジすることができる。そのため、船が故障しても修理後に再スタートしたり、天気予報を見て再スタートのタイミングを図ったりすることが可能だ。また、船のサイズや乗員の制限はない。

「ジュール・ベルヌトロフィー」はこれまで19回の開催中、9回記録が更新されており、現在の最高記録は、2017年のフランシス・ジョイヨン〈 IDEC Sport 〉による40日間23時間30分30秒だ。比べる対象にはならないかもしれないが、単独世界一周レース「ヴァンデ・グローブ」の最速記録は74日3時間35分46秒である。

 

2020~2021年シリーズで、最速記録更新に挑んだ2チームを紹介

©Gitana

EDMOND DE ROTHSCHILD

スキッパーのシャルル・コドルリエ( Charles Caudrelier )(左から3番目)と、フランク・カマ( Franck Cammas )(一番右)が率いるGitanaチーム。乗船艇は〈エドモンド・ド・ロスチャイルド〉

 

©Sodebo

Sodebo Ultim3

スキッパーのトーマス・コビル( Thomas Coville )(中央)率いるSodeboチーム。乗船艇は〈 Sodebo Ultim3

 

2020~2021年シリーズには、全長32mのマキシトライマラン2艇が挑戦。スキッパーの数々の戦歴を残すセーリング界の強者、フランク・カマ( Franck Cammas )と、2012年ボルボ・オーシャンレースのチャンピオン、シャルル・コドルリエ( Charles Caudrelier )率いる、ジターナ(Gitana )チームの〈エドモンド・ド・ロスチャイルド( EDMOND DE ROTHSCHILD )〉。もう1艇は8回もの世界一周歴を持つスキッパー、トーマス・コビル( Thomas Coville )率いる〈 Sodebo Ultim 3〉だ。

 

 

アクシデントに見舞われた2艇

©Gitana

〈エドモンド・ド・ロスチャイルド〉

帆走中の〈エドモンド・ド・ロスチャイルド〉。全長32m、全幅23m、総重量16トンのマキシトライマラン

 

©M.Keruzore/Sodebo

〈 Sodebo Ultim 3〉

バウで作業するコレンティン・ホロー(左)とトーマス・コヴィル(右)

 

2艇は2020年11月25日にスタートした。

〈エドモンド・ド・ロスチャイルド〉は11月26日、大西洋南下中に未確認浮遊物体と衝突。左舷側のフォイルと、ステアリングシステムの一部が破損したため、レースを中断し、ホームポートのフランス・ロリアンに戻って修理に取りかかった。修理終了後、1月10日に再スタートしたものの、1月22日に今度は右舷側のラダーが故障。海上での修理はできないと判断し、チャレンジを終了した。

 

〈 Sodebo Ultim 3〉は12月11日、インド洋のケルゲレン諸島とルーイン岬の間を30kt以上で航行中、スキッパーのトーマス・コビルは、右舷側ラダーの損傷に気づく。Sodeboチームは海上では修理できないと判断し、チャレンジを中断。1月12日にフランス・ロリアンに戻った。

 

 

なぜ最速記録の更新に挑戦するのか

ただ世界一周を達成するだけでも人間離れしているのに、その最速記録の更新に挑むツワモノたち。地球を楽しんでる人選手権を勝手に開催したら、トップ争いしそうなメンバー……。というのは頭の中で妄想するとして、そもそも世界一周は一度で満足するだろうに、何度も世界一周しているような人ばかりが、なぜ最速記録の更新に挑むのか。私の考えはこうだ。1、普通に世界一周するのは辛いから、なるべく早く一周したくて、どうせなら最速記録を出してみようか、という思考。2、相当なバイタリティーと闘争心の持ち主が集まり、「みんなで渡れば怖くない」的な心理に陥って、無謀なことに挑戦してみたくなってしまった。3、世界一周最速記録を持つという栄光の追求、などだ。いつか彼らに聞いてみたい。

 

世界一周は運だ

未確認浮遊物と衝突してしまったり、艇を破損してしまったりする。そもそも世界一周の航海を達成できるのかどうかは、運次第ではないだろうか。そう、ヨットレースも大半は運だ。どんなに船を整備していても、思わぬときに船は壊れる。ディンギーのレースでも、マストが曲がったり、ブームが折れたりすることはよくある。だからジュール・ベルヌトロフィー挑戦艇の失敗もとても身近に感じた。チャレンジが失敗に終わったとき、チームとして、あるいは個人として、どうやって乗り越えていくのか。船を修理して再出艇を試みるか、挑戦を諦めるか。次の目標をどのように定めるのかなど、ジュール・ベルヌトロフィーの出場チームの取り組みは、まさにヨット部運営においても大いに参考になる点があり、今回の挑戦チームから多くの気付きを得ることができた。

 

(文=Kazi編集部/松山 暁)

 


ジュール・ベルヌトロフィーの公式サイト「ASSOCIATION TOUR DU MONDE EN 80 JOURS」
https://www.tropheejulesverne.org

〈Sodebo〉の公式サイト「Sodebo Trophée Jules Verne」
https://tropheejulesverne.sodebo.com/trophee-jules-verne/

Gitanaチームの公式サイト「GITANA Edmond de Rothschild」
http://www.gitana-team.com/fr/


ヨットレース

ヨットレース の記事をもっと読む