
ともにサバニ帆漕(はんそう)レースに出場した次女の碧さんが贈ってくれた伝統和船「サバニ」。宮古島で暮らす父へのプレゼントである。このサバニを伝統的な艤装にしつらえ、海に浮かべる池本孝徳さん。海辺で暮らす憧れの暮らしを紹介する連載「コースタルデイズ」。まずは、池本さんの暮らしを全5回でお届けします。


憧れのスローライフ
池本孝徳さん(以下、池さん)は春から秋は週に3 ~ 4回ほど伝統和船のサバニで海に出る。「3 ~ 4人乗りのサバニもいいけど、神奈川県の油壺にいたときから“今日もお前と俺の2人だけだな”なんてさ(笑)。人がいなくてヨットを出せないってのはもう散々経験したから、1人乗りがいいかなって。朝目覚めて、天気がいいな、風もいいな、じゃあ乗ろうかな。5 ~ 6m/sあれば楽しいし、風が悪ければ浜でゆっくりすればいい」
まさに憧れのスローライフ。舵もアウトリガーもないサバニに「っざく(櫂。糸満では、えーく)」を差して針路を保持。見よう見まねで乗ってみた。全長5m、全幅80cm。キールもないのでタッキングでものすごくドリフトする。リーウェイもすごい。私は何度も沈(ちん)したが、池さんはスラーっとスマートに乗っていた。さらに、池さんのこだわりはできるだけ古式にこだわって乗るということだった。
サバニの正しいリズム
「例えば三線(さんしん)をエレキギターみたいに弾く若者がいたとする。ギュイーン! なんてチョーキングしたり。それってかっこ悪いよね(笑)。サバニも同じ。ILCA級やウインドサーフィンのリグをサバニに装備したら、たぶん速くて楽になる。でも、それは違うしサバニ文化の冒涜だと思う。三線には三線のリズムがあるように、サバニにはサバニのリズムと乗り方がある。とん、てん、てん。とんてんてんってさ」
このあたりのこだわりは、ぜひ第5話を見てほしい。「でもさ、サバニのタキングは『っざく』を差しただけじゃマニューバしないから、風下側を漕ぎながらラフィングしていく。セールを入れながら漕ぐとき、伝統的な『ざくぎー(マルバチシャノキ)』製だと重いから、軽いスギ製を使ってるんだけど……。これは邪道かな(笑)」。セーリングの話をする池さんは、いつもこんな感じで少年に戻る。そんな池さんに、これからの夢について聞いてみた。次はどんなことをしたいですか? ビールを一口飲み、少しだけ考えた池さんがゆっくり答えた。
「このまんまでいいかなぁ」
私はなんだか泣けてきて、ぬるくなったビールを飲みほしその場をごまかした……。次回は、そんな池さんのキールボートライフについてお伝えします。
(次回3へ続く)






池本孝徳さん Takanori Ikemoto
20 代、宮古島でダイビングとヨットに明け暮れる。本土へ渡り、『ヨッティング』誌を経て『Kazi』誌の営業を務めて2013 年退社。宮古島へ戻り、海辺のスローライフを送る。大浦漁港のスロープにて。
海辺暮らしのこぼれ話
text by Takanori Ikemoto
15年ほど前に話を聞いた、ある漁協の元組合長。ご存命なら95歳。彼が13歳の頃、オジィに連れられてサバニで隣の島に芋を買いに行った時の話。冬の北風、船べりに腰を掛けて背中でスプレーを浴びながら追っ手で帆走。帰りは上り切れず、棹で押してホームポートに戻った、という。間切るという言葉はあるが、実際はタッキングの概念が無いように思う。私の場合も上りで稼ぐVMG(有効速度)をいとも簡単にシーカヤックが抜いていく。それもまたいい。
(文・写真=中村剛司/舵オンライン編集部)
本記事は月間『Kazi』2026年2月号からの抜粋



















