SailGP座談会! 激闘のシーズン2感動の名場面

2022.07.06

時速100km/hの世界最速サーキット、SailGPシーズン2。日本チームは、シーズン1と同じく2位となり、賞金の100万ドルを逃した。熱きレースを終え帰国した早福和彦さん(COO)、笠谷勇希さん(グラインダー)、 そしてシーズン3からチームにジョインする後藤浩紀さん(SAILFAST代表)の3人に声をかけ、5月2日にリモート座談会を開催。シーズン2を振り返っていただいた。

(タイトルカット=photo by Ricardo Pinto for SailGP|シーズン2を駆け抜けた日本チームのF50。フリートレース1位最多取得、イベント後半では、最速平均速度も連発した)

 

 

座談会に参加していただいた日本チームの皆さん。右上から時計回りに、早福和彦さん(COO)、後藤浩紀さん (コーチ/ SAILFAST代表)、笠谷勇希さん(グラインダー)、月刊『Kazi』編集部・中村

 

――シーズン2を振り返る前に質問が! シーズン3の第1~3戦に日本チームが出ないという話が飛び交っていますが・・・。 

早福和彦さん(以下、早福)「シーズン3は10チームが参加しますが、F50は9艇しかありません。10艇目の建造が終わるまでどこかのチームが休むことになり、残念ながら日本チームが選ばれました。日本が使っていた艇はカナダチームが使います。理由は、参加チームのなかで日本だけが自国開催がないこと、そして経済的な面ですね。すでに10チーム中4チームがフランチャイズ化し、ほかのチームもスポンサー獲得を始めていますが、日本は遅れています。しかし、5月14、15日の初戦バミューダ大会の直前まで、トレーニングはできます。後藤浩紀さんにもコーチ枠で参加してもらう予定です」 

後藤浩紀さん(以下、後藤)「いや、その“コーチ枠”っていうの、恥ずかしいからやめてほしいです(笑)。5月6日に出国して12日には帰ってきます。バミューダ大会の中継に間に合うように(注:後藤さんはJSPORTSオンデマンド配信の日本語解説者を務めている)」 

早福「日本は、第1戦バミューダ大会と、第2戦アメリカ大会、第3戦イギリス大会を休み、第4戦デンマーク大会から参加します。デンマーク以降の3戦で日本チームが取得したポイントの平均点が、第1~3戦のポイントとして加算されます」 

笠谷勇希さん(以下、笠谷)「第4戦で優位に立てれば、いきなり首位という可能性もあると思います」 

 

 

シーズン3も日本チームとして参加するドライバーのネイサン・アウタリッジ(奥)と、ウイングトリマーのクリス・ドレイパー(手前)。ドレイパーは初戦と第2戦はカナダチームに乗ることが決定 

photo by Ricardo Pinto for SailGP

 

――なるほど。ではあらためまして、シーズン2は惜しくも2位。優勝賞金の100万ドルを逃してしまいました。率直なご意見をお願いします。 

早福「いやいや、2位というのは素晴らしい成績だと思いますよ。どこのチームも一緒ですが、コロナ禍ですごく制約があった厳しいシーズンでした。練習日が1~2日しかないなかで、若い選手を育てなきゃいけない。新たな候補選手、中村大陽と藤村裕二が参加できました。戦力が落ちたといわれながら、前回同様2位という成績を維持したことは素晴らしいことです。もちろん優勝が最終目標ですが、私としてはフライトコントローラーの高橋レオの成長がありましたし、次につながるいいシーズンだったと思います」 

笠谷「しかし、残念といえば残念ですよね。ファイナルで戦えるチャンスっていうのは、今後さらに限られてくると思います。シーズン1で6チーム。シーズン2で8チーム、そしてシーズン3は10チームです。各チームのキャッチアップもあり、ファイナルで戦える機会がより貴重になってくると思います。早福さんが言う通り、レオの成長は素晴らしいことでした。ポジティブサイドに目を向けて、シーズン3もしっかりがんばっていきたいと思います」 

後藤「そうですね、もちろん2位という結果は、手放しでは・・・。悲願ならずっていったところですが、シーズン2全体で見ると、日本チームがイベントとして勝ったのは2回ですよね。シーズン1よりは優勝数は増えています。データを振り返ると、実は日本はフリートレースで1位を取った数が、全チームの中で一番多いんですよね。しかし、最後のファイナルレースでオーストラリアに負けるというパターンでした。オーストラリアはイベント5勝なので、力があるっていうのは認めないといけないんですが、フリートレースの結果を見れば日本は2位の実力があったと思います。シーズン1から考えたら、イアン・ジェンセンとルーク・パーキンソンをイギリスに引っこ抜かれて、大幅に戦力ダウンしたところからの巻き返しでした。2位を維持したことは、がんばったといえるんじゃないでしょうか」 

 

――印象に残ったレースを教えてください。 

後藤「実況していて印象深かったのが、サントロペ(第5戦フランス大会)ですね。初のビッグウイングの使用で、あえてフォイリングさせずにマニューバを減らして日本がアメリカを抜いたシーン。あとはやはりオーフス(第4戦デンマーク)のフリートレース。画面の下のとんでもないところから日本が出てきたシーンがあるじゃないですか。マークから遠ざかって、風をとって、ダントツになるっていうのはあれはもう象徴的だったと思いますね。ネイサンの風を見る目。印象的でしたね」 

笠谷「デンマークの2日目はヘロヘロでしたね、風(笑)」

後藤「有名な、ベン・エインズリーの“シャラップ! ネイサン!”も出たし」 

 

――無線でのやりとりですよね。権利艇のネイサンがペナルティーを履行しないエインズリーに何か言ったことへの返事ですか?

後藤「いえ、ネイサンはジュリーに質問しただけです。英国は履行しないの?って。そしたらそれを聞いていたベンが、くだんのセリフを。すぐ履行するからガタガタ言うな! みたいなことでしょうね(笑)」 

早福「デンマークといえば、森嶋ティムがファイナル前に気合をいれてヒゲをそってたね(笑)。僕はやはりシドニー(第7戦オーストラリア大会)ですね。大変な思い(英国と接触し艇体大破)をして復活した2日目、今思い出しているだけで鳥肌がたってますけど、あの状態でカンバックストロングっていうか、一致団結したチームの実力を見たな、という。ウイークポイントだった強風も克服。レオのフライトコントローラーデビューもシドニーです」 

後藤「シドニーからあきらかによくなりましたよね。続くサンフランシスコ(第8最終戦アメリカ大会)の初日は、第1マークを回る順位、3レース連続1位のハットトリックでした」 

笠谷「僕もシドニーですね。印象に残りすぎた、というか(笑)。クラッシュの瞬間は特に」 

 

 

座談会を盛り上げたデンマーク・オーフス大会

2日目/第5レース

後藤さんがオススメするシーンは、2日目の第5レース。 微風のなか1艇だけまったく別のコースを引いた日本 チーム。6位の状態で画面下から突如あらわれ、その まま1位にビッグゲイン!フォイリングを捨ててまで風 を拾いにいったアウタリッジの読みの素晴らしさに感 動した。ネイサンにしか見えない「パフ」が存在!
(写真提供=J SPORTS)

 

 

2日目/ファイナルレース

高速艇バージョンのセーリング競技規則に基づいたインシデントが決勝マッチで発生。日本が英国に抗議。ネイサンは、なかなかペナルティーを履行しない英国についてジュリーに質問。するとそれを聞いていた英国のスキッパー、ベン・エインズリーが「シャラップ! ネイサン!」と無線で発言。世界的な話題に(笑) 

(写真提供=J SPORTS)

 

 

第7戦/オーストラリア・シドニー大会

全員一致で名シーンとして挙げたシドニー大会2日目。初日に英国チームとの接触で大破した日本チームは、英国 チームの艇体、ラダーダガーに自前のウイングを装備して出場。強風吹き荒れる2日目のフリートレースをオールトッ プで駆け抜けた。「思い出しただけで鳥肌が立ちます。感動しました」(早福さん)

photo by Brett Costello for SailGP

 

――シドニー大会で日本チームがクラッシュしたとき、後藤さんの実況が放心状態でしたよね・・・。あれは怒りから?

後藤「いやいや(笑)。最初は、バウが切断されるほどの事故とは思わなくて。中継中は映像と現地実況以外、情報がないんですよ。だから気になってしまって。日本が画面に映っていないときはとくに。いまでは早福さんにメッセンジャーで聞いたりしてます」 

早福「僕も渡部雄貴(元広報)と陸上で映像を見ていて、思わず立ち上がってしまいました。しかし、赤、いいなあ・・・(シドニー大会の動画を見ながら)」 

笠谷「赤はもう多すぎですよ。スペインもカナダも赤だから」 

早福「あ、この話は、これを機会にブランディングを変えようかって案があって。日本なので艇体はサクラ色とかいいんじゃないか、とかね」 

笠谷「逆に中村さんはどのレースが印象的でしたか?記者の目で見て」 

 

――私は・・・皆さんがもう見たくないといっていた最終戦ですね。レース内容は確かに、・・・でしたが、1年間のサーキットの集大成というか感慨深いものがありました。後藤さんは感情がそのまま出る実況をされる。最終戦、グランドファイナルで言葉に詰まったあの時間、なんかその思いが伝播しちゃいました。 

後藤「だって、もう言うことないじゃないですか(笑)。見せ場もなくて」

笠谷「風が落ちて振れたグランドファイナルは、なんだこれ?みたいな感じでした。チームは」 

早福「でも初日の日本はすごかった。最終戦の見どころだったと思います」 

 

 

第8戦/アメリカ・サンフランシスコ大会

最終戦、日本チームは最高平均速度を何度もたたき出し、レースの目玉となる。最終決勝戦=グランドファイナルに コマを進めるも、2位でフィニッシュ。風が大きく傾き、マニューバがほとんどない1本コースの決勝戦・・・。勝利の女神はオーストラリアに微笑んだ

photo by Felix Diemer for SailGP

 

――では、まとめに。シーズン3で勝つためにはなにが必要でしょうか?

笠谷「いろいろありますが、とくに強風のコンプレックスマニューバがまだ改善の余地があるかなと思います。サンフランシスコはよかったですが、シーズン通して安定性がまだなかったので。タッキングからベアアウェイとか、もっと練習したいですね。あとは、メンバーチェンジ。ブルーニ、ルークという心強いメンバーがいなくなった半面、西尾くんみたいな新しいメンバーも入ってくるので、彼らとともにキャッチアップしていくことが必要です。特に僕が関係するところでいうと、フィットネスとウエイトの部分でもまだ詰めるところがあります。実力が拮抗してくると、そういう部分で差が出る。それは結果として大きな差になると思う。そこをしっかりやりたいと思います」 

後藤「僕から何をしたらいいってのはないんですが、最初の3戦、出られない期間をどうすごすかっていうのが大事だと思います。いつもレース、レースとスケジュールに追われてできなかったことを時間をかけてやる。スポンサー集めとかもそうですね。資金面が解決することで、チームにとっての不安が解消されるんであれば、まあ、結果よかったじゃん、あの期間があってよかったって言えるといいですよね。チャンピオンシップに関しては平均点をもらえるので、そこは痛手じゃないと思います。あとはメンバーが減っているのは現実問題痛手ですね。中継だって日本がいないのはやりにくいですよ(笑)」 

早福「後藤さんが言ったように、まずは資金集めですね。そして日本開催。フォーカスしなければならない大事な部分です。レースに関しては、レオの活躍だったり僕はシーズン2はいい形で終えたと感じています。大切なのは、さらに次のシーズン4に向けて若手をどこまで育てていけるかですね。そして、ニュースは西尾選手の加入。これでグラインダーは強化されますが、後ろのポジション、ウイングトリマーは誰がやるのかという問題があります。今回つくづく思ったんですが、若い選手は習得が早いし感覚も鋭いし、なにより怖いもの知らずですよね。あの状況のなかで、こんな高いフネ壊したらどうしようなんて思ってないんですよ(笑)。もう面白くて仕方ないんでしょう。だからどんどん攻める。それは若者の特権ですから。ネイサンとクリスがいるうちに、技術をどんどん吸収してほしい。そういう意味では3戦欠場は痛い。でも、こんな状況でもネイサンはチームにまだ残ってくれる。本当に日本のことを考えてくれている。僕ももうちょっと先を見据えてサポートしていきたいですね」 

――素晴らしいコメントの数々。シーズン2では、多くの感動をありがとうございました! 

 

 

シドニー大会でフライトコントローラーデビューを果たし た高橋レオ(右端)、23歳。グレン・アシュビーのコー チを受け、フランチェスコ・ブルーニの後を引き継ぎ、 見事なハイトコントロールを見せた。彼の成長は、日本 チームの大きな財産の一つと言える 

photo by Ricardo Pinto for SailGP

 

各チームのキャッチアップもあり、 ファイナルで戦える機会がより貴重になる(笠谷)

出場できない3戦をどう過ごすか。 あの期間があってよかったと言えるといい(後藤) 

若者はもうレースが面白くて、どんどん攻める。 それは若者の特権です(早福) 

 

(文=中村剛司|Kazi編集部)

 

※本記事は月刊『Kazi』7月号に掲載されたものを再編集したものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

 

シーズン3開幕戦/ バミューダ・ハミルトン大会、結果

開幕戦を制したのは、シーズン2の覇者、トム・スリングズビー率いるオーストラリアチーム。決勝戦=ファイナルに進出した、ベン・エインズリー率いる英国 チーム、スペインチームから移籍したフィル・ロバートソン率いるカナダチームを下しての勝利となった。スリングズビーは「私たちは、この3艇で競うファ イナルレースのスペシャリストになりつつある」と高らかにコメント。ここに日本 チームがいなかったことが悔やまれる。

photo by Simon Bruty for SailGP

 

レース観戦方法 

SAILGP J-SPORTS(日本語解説あり)

https://www.jsports.co.jp/pickup/sailing/ 

https://jod.jsports.co.jp/pickup/sailing

 

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SEASON 3 CALENDAR(レース日程)

1    BERMUDA SGP    15-16May 2022

2    UNITED STATES SGP    19-20 Jun 2022

3    GREAT BRITAIN SGP    30-31 July 2022

4    DENMARK SGP    19-20 Aug 2022

5    FRANCE SGP    10-11 Sep 2022

6    SPAIN SGP    24-25 Sep 2022

7    DUBAI SGP    12-13 Nov 2022

8    SINGAPORE SGP    14-15 Jan 2023

9    AUSTRALIA SGP    18-19 Feb 2023

10    NEW ZEALAND    SGP 18-19 Mar 2023

11    UNITED STATES    SGP 6-7 May 2023 

 

 

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