ロープを撚り、ロープを編む、奥深き結びの世界(3)

2023.06.21

イラストレーター国方成一さんが紡ぐ、奥深き「結びの世界」。

月刊『Kazi』6月号に掲載された記事を3回に分けて再録。

古着を使って三つ撚り(三つ打ち)ロープを作り、そのロープでスプライスを教えてくれた国方さん。ラストのその3では、ロープワークについての考え方を教えてもらいました!(舵オンライン編集部)

メインカット | photo by Shigehiko Yamagishi | Kazi | 自宅のアトリエで飾り結びを編み込む国方さん。自ら考案した穴あき板(編み込み専用の台)の上で、マットを編む。このアトリエは絵画教室としても開放され、子どもから大人まで多くの生徒の笑顔であふれる場所でもある 

 

 

国方さんのアトリエで開催している絵画教室の看板

 

 

カリンで作った木鐘。やって来たことを、子どもたちが国方さんに知らせるため、元気に鳴らす

 

 

私とロープワーク……

ある人に「どうしてそんなにロープワークに凝っているのですか?」と聞かれた。私本人としては趣味としてのめり込む、または凝るなどと一度も考えたことがないから、この問いにどのように答えたらよいのかとまどう。長いことセーリングを続け必要に迫られて覚えた結びが次第に増え、適所に合ったそれらの数が多くなる。「それを人が見ると趣味のように見えるかも……」という返答しか言いようがない。 

趣味収集というとできるだけ数多くのモノを手にする。そのようなイメージがあるけれど、こと私のロープワークに対する姿勢は、使わない結びを知る必要はないと考えている。セーリングに使用する結びにも言及すれば、その数は必要最小限ということになる。 

自分が扱う結びの数をあまり意識したことはないけれど、長年多くのセーラーと付き合ううちに、大抵の人がそれほどたくさんの結びを使っているわけではないのにも気づく。一般的にボーラインノット(舫い結び)とクラブヒッチ(巻き結び)及びエイトノット(八の字結び)その他四つか五つの結びを知っていれば、セーリングではそれほど不自由しないというのも事実だ。 

私は長距離、短距離も含め長年にわたりセーリングを続けていたとき、特殊な条件下ではこれら以外の結びをしないと的確な対処が出来ないことも分かってきた。 

ある一つの例えは、かなり荒天下のセーリングではセールをとことんまで縮小しトライスルを展開する。そのクリューを結ぶシートは絶対に解けてはいけない。そんな厳しい条件下ではいかにキング・オブ・ノットと呼ばれるボーラインノットでもダメなのだ。トライスルシートベンド(その2参照)で結ぶのが正しい。この結びを使用した後は解けずナイフでカットするしかないというほど、悪天候の条件には信頼性のあるロープワークだ。 

そのほかにも特殊な用途に合う結びが次第に身に付くようになり、数十年の蓄積でその種類が趣味の収集と思われるほど多くなったということだ。 

私も皆さんと同じく初歩の結びは、セーリングを始めた頃に先輩セーラーに教わったのは言うまでもない。次第に使いこなせるようになり、今度は少し自分で調べるようになるとその数および適材適所もマスターしていく。そうするうちに次第に後輩セーラーたちに手ほどきするようになる。いい加減に教えるわけにはいかないのでさらに自身で勉強し、セーラー仲間からも結びに関しては一目置かれるようになった。 

私にはセーリングから離れた普段の家庭生活でも、ロープワークはかなり役に立っている。家を訪ねた客や友人には珍しいらしく、とても興味深く見てくれる方もいる。なかにはとても良い趣味ですねという人もいるが、当人としては趣味ではなく自然の使いやすさを利用しているにすぎないと言いたいのだが……。 

工房の窓や天井の開閉式窓などはリードするロープを使い開け閉めする。止めるには自作したクリートへ結ぶなど、そのほかロープを使った工作類は我が家には少なくない。 

 

 

自作の開閉式窓。子どもたちに大人気。でも、ふざけてけがしたら困るので触らせません(笑) 

 

 

天窓はデンマークのベルックス製。これもロープワークを使って開けることが可能 

 

 

近年、梱包材が普及し、昔のように荷物を紐や縄で縛るという方法も全くと言ってよいほど無くなった。特殊なテープやプレスして固定する用具など、荷物を結ぶなどという作業はとうの昔に消えてしまったようだ。 

繰り返しになるが趣味収集のようにたくさんの結びを覚える必要はない。なんでもかんでもただのかた結びではなく、ひとつ捻りをいれた八の字結び(フィギュアエイトノット)やモノを束ねて縛るのに巻き結び(とっくり結び=クラブヒッチ)を生活の中に取り入れよう。少しずつ日常が楽しくなるはずだ。 

                 *

大切なのはその結びを“知っている”ではなく“使っている”ということだ。 

 

 

自宅の庭で寛ぐ時間。日除けはもちろんダクロンセール。タックやクリューはロープとブロック、クリートにつながる 


 

その1を読む

その2を読む

 

(文=国方成一  写真=山岸重彦/舵社)

※関連記事は、月刊『Kazi』2023年6月号に掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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国方成一
Seiichi Kunikata

東京都出身、多摩美術大学卒業。イラストレーター、造形作家。自宅のアトリエを開放し、絵画教室やロープワーク教室などを開催。ヨットを楽しんだのは、神奈川県の伝統的な小網代湾にて

 

 

『ロープワーク入門講座』(国方成一 著。舵社刊。右)、『結び 生活に美と潤いを求めて』(中沢 弘著、国方成一 画。天然社刊。左)など、結びに関する多数の書籍を上梓

 


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●6/5発売、月刊『Kazi』7月号|特集は「雨がやんだらヨットを出して」

●ロープを撚り、ロープを編む、奥深き結びの世界(1)

●ロープを撚り、ロープを編む、奥深き結びの世界(2)

 


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