最近、左側の耳が少し聞こえにくくなってきたかな、というところへ フォナック補聴器体験レポートの話が舞い込んできた。
正直言って「耳が聞こえにくくなった」ことを周囲に知られたくない、というのが本音なのだが、今回の体験を通して、そのように思うこと自体が間違っているということを気づかせてもらったのが何より収穫だった。
文=田久保雅己 写真=落合明人(Kazi)
取材協力=東京ヨットクラブ、東京夢の島マリーナ
フォナックの最新補聴器「インフィニオ スフィア」を試着したSea Dream編集長/Kazi元編集長の田久保雅己。耳にある補聴器の存在は、外から見てもまったく分からない
体験にあたって、まずは私の聴覚を測定するために、東京・中目黒にある補聴器販売店「ワールド・オブ・ヒヤリング」へ行った。
フォナックがお勧めする店舗は各地にあるため、利用者は行きやすい場所を選ぶことができる。
ワールド・オブ・ヒヤリングの店内に入ると、正面に難聴を体験するコーナーがあり、その奥に測定室や補聴器の調整室が並んでいる。
東京・中目黒にある「ワールド・オブ・ヒヤリング」。店内は明るく、「耳が聞こえない」という暗いイメージはここで一気に払拭される
店内正面にあるコーナーでは、健聴者が難聴の状態を擬似体験することもできる。家族などが難聴者への理解を深められるだろう
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さっそく認定補聴器技能者(聞こえのスペシャリスト)を紹介され、「日常の聞こえ具合」についてカウンセリング。
続いて防音の測定室でいくつかの測定。次はフィッティングルームに入室し、装着する補聴器「インフィニオ」と私の測定データを取り込んだパソコン上で、左右の耳それぞれの最適な「聞こえ」をオーダーメイドで調整する。
最後に私用スマホにアプリ「myPhonak」を入れて補聴器と同期させて、すべて終えるまでで約1時間。
聴覚測定の最初は「日常の聞こえ」について、事細かな情報交換が行われるため、その後の測定に対する不安が払拭されていく。恥ずかしがらずに正直に「聞こえ」の状況を伝えることが大切だ
聴覚測定では、一般的な健康診断で行われる検査とは異なり、より深く細部にわたる聴覚データを客観的に判断するための機材が使用される
測定では単に音の聞こえに対する電子音のみならず、フィッターが発する言葉に対して正しい認識ができているかどうかもデータ化される。自分の耳の「聞こえ」が徹底的に分析される瞬間だ
聴力測定で得たデータを取り込んだパソコン上で、利用する個人のパーソナルな微調整がなされる。まさしく世界で一つしかない自分だけの補聴器が完成する
利用者のスマホと当人が使用する補聴器を同期して調整するオーダーメイドのうえに、使用シーンによってモードを変えたり、左右(片耳ずつ)の音を調節することもできる
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実際に着けてみると、きわめて軽く、ほとんど装着感がない。普通のイヤホンのような密閉感もなく、しばらくすると着けていることを忘れるほどだ。
体験して気づいたのは、横断歩道で信号待ちをしているときに「目の不自由な方のためのボタン」から発する信号音や、電車の構内アナウンスなどがよりクリアに聞こえたこと。AIが判断して重要な音を選んでいるとのことで感心した。また、ビジネスシーンでのコミュニケーションはもとより、居酒屋など喧噪の中でも会話がスムーズに進むことを実感した。
スマホと連動できるため、フリーハンドでの通話も可能だし、通勤電車内で音楽も聞ける。40代、50代の働き盛りの難聴者にとって、こうした「聞こえ+α」の機能は仕事上でも役に立つだろう。
ガヤガヤした居酒屋の店内ではスマホのアプリで「レストランモード」にすると、周囲の雑音がおさえられ、話し相手の言葉をよりはっきり聞くことができた
次は、補聴器を装着してセーリングクルーザーに乗ってみた。
海の上では雨や風、スプレー(波しぶき)をあびることがあるが、「インフィニオ」にはIP68を超えるウォーターブロック機能も備わっているので安心して操船することができ、もちろん同乗者との会話もスムーズ。
防水性が強化された「インフィニオ」には、風切り音を軽減する機能も備わっているので、ヨットやボートとの親和性が非常に高い
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このデイクルーズの際に、アメリカズカップ艇も採用しているというワイヤレス通信システム「ロジャー」を試す機会を得たのだが、この機能の素晴らしさには感激した。
バウ(舳先)にいるロジャーマイクを装着したクルーと、スターン(船尾)側で操舵している私で会話してみたのだが、大声で叫ばなくても普通の声で作業の指示ができた。クルーからも「後方からボートが来ています」など、まるで耳元でささやいているようにはっきり聞こえるのである。
首元にマイクを設置しているのでハンズフリーで作業をしながら会話ができる。船上における正確な情報交換は、安全運航につながる。仮にクルー全員が装着していれば、皆で情報を共有できるのだ。
ロジャーのマイクを首から下げたクルーの声は、フォナック補聴器を装着した他の乗員の耳にダイレクトに届く
出航準備のため桟橋から舫いを解く瞬間。ロジャーのおかげで大声を出さずにクルーとのコミュニケーションがとれる
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このような体験を通じて、フォナックの補聴器は難聴者の日常生活だけでなく、マリンライフをも豊かに変えるツールであると実感した。
繰り返すが、「聞こえにくい」は恥ずかしいことではない。そのまま放置して周囲に迷惑をかける時代は終わった。まずは、耳鼻咽喉科で聞こえの検査をしてみることをお勧めする。
専用のディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)チップを搭載(世界初:2024年8月時点)/あらゆる方向からの言葉の聞き取りを向上/迅速なユニバーサル接続性で瞬時に対応。
●使用電池:リチウムイオン(充電式)
●期待動作時間:18 時間
●ロジャーダイレクト対応
●適応聴力:難聴程度 軽~重度
●カラー:4色(2025年3月時点)
●価格:片耳512,000円~(機能によって異なる)
インフィニオ スフィアなどの補聴器を装着している人にワイヤレスで音声を届けることができるマイク。騒がしい場所や最大25m離れた場所からの聞こえをサポート。携帯型のほかに卓上型のマイクもある。
[ロジャー オン 3]
●3時間充電で約8時間使用可能
●使用可能距離:最大約25m
●幅24mm×長さ100mm×高さ14mm
●重さ27g
●価格:209,000円(税込)
舵社の雑誌読者で構成されるシードリーム倶楽部の会員や東京ヨットクラブのメンバーなど、ヨット・ボートの愛好者を招き、最新補聴器「インフィニオ」や「ロジャー」の体験&懇親会を開催(1月19日、於:東京夢の島マリーナ)。
参加者からは「暗い印象だった補聴器のイメージが明るいものに変わった」、「さっそく聴力検査に行きたい」などの声が聞かれた。
当日は体験会に先立って、ソノヴァ・ジャパンの眞鍋 幸(まなべみゆき)代表取締役(左)と、自らフォナック補聴器を体験した田久保雅己とのトークショーが行われた
トークショー後に開催された体験会で、補聴器の機能を擬似体験するヨット・ボートのオーナーさんたち
懇親会でベテランセーラーたちの声に耳を傾ける眞鍋社長(左端)。マリンライフを楽しむためには「聞こえ」も重要であることを認識した会となった
この記事は月刊『Kazi』2025年4月号に掲載された「世界をリードするスイス製補聴器PHONAK」を再編集したものです。