【短期集中連載】マリンの仕事③|セーリングのスペシャリスト|プロセーラー

2024.02.20

セーリングの世界において、最も憧れられる職業の一つがプロセーラー。
彼らは日本を代表する腕利きのヨット乗りたちです。

今回は、そんなプロセーラーという仕事の内容と、そこにかける志を紹介します

 

2024年『Kazi』1月号の特集「海で働く」では、マリン業界の中からいくつかの職種を紹介しました。その内容を再編し、舵オンラインで公開します!

 

シリーズの記事はコチラから!

マリンの仕事①|充実した海の休日を演出|マリーナスタッフ

マリンの仕事②|頼れる商品知識と品揃え|マリンショップ

マリンの仕事③|セーリングのスペシャリスト|プロセーラー

マリンの仕事④|最高の海着をユーザーに|ウエア代理店

マリンの仕事⑤|世界の海で信頼される製品を|舶用電子機器メーカー

マリンの仕事⑥|人の成長を導く航海に|帆船クルー

マリンの仕事⑦|最速の船造りへの挑戦|ボートデザイナー

マリンの仕事⑧|お客さまの愛艇を届ける|輸入艇ディーラー

マリンの仕事⑨|世界で戦うセールを作る|セールメーカー


マリンの仕事③|プロセーラー
伊藝徳雄さん

 

2023年11月、スペインで開催されたスターセーラーズリーグ(SSL)ゴールドカップの日本代表にも選出された伊藝徳雄(いげいのりお)さん(写真先頭)。レースでのポジションは、主にバウマン。常に船の一番前からチームをけん引する存在だ
photo by Martina Orsini

 

 

ヨットの楽しさを引き出して世界を広げる

プロセーラーという職業を取り上げるにあたって、今回お話を伺ったのは日本を代表するプロセーラーの一人、伊藝徳雄さん。セーリングで生計を立てるということは、どんな仕事をして、そこにはどんな素質が必要なのだろうか。

「プロセーラーと言っても、いろいろな仕事の内容があります。レースだけでなく、コーチングや、船やセールのセッティング、修理、回航、ウエアや艤装品の販売などです。私もヨットの全般的なサービス業をやらせてもらっていますが、活動の主体となっているのは、ありがたいことに主にバウマンというポジションで国内外のキールボートのレースにお呼びいただき、そこに参戦することですね」と話す伊藝さん。

 

ヨットに乗る上で必要な技能や知識を広く深く持ち合わせた、セーリングのスペシャリスト。それがプロセーラーという仕事だ。

 



 

 

「プロセーラーとして活動をする上での基盤は、やはりかつて日本がアメリカズカップに挑戦したニッポンチャレンジに参加した時に作られたと思います。しかし、あのチャレンジが終わったあと、個人で企業のスポンサーがつくようなレベルのメンバーもいましたが、自分はそうではなかった。それでも、自分はそんな人たちと同じくプロを名乗ったんです。彼らと同じように、絶対にヨットで生きていくんだ、という決意と覚悟の表明ですね」(伊藝さん)

 

愛艇のメンテナンスは、ヨットのことを熟知したプロセーラーにこそ依頼したいと思える仕事だ。写真のようにマストに登ることもしばしば

 

 

セーリングスキル以外にも、ロープワークなどの加工スキルも大事になってくる。伊藝さんはかつて本誌企画でもスプライスの講師を担当していただいた(プロのロープワークを学ぶ/アイスプライスの手順公開!

 

 

それでは伊藝さんがプロセーラーとして生きるためにしてきたことはどんなことなのだろうか?

「当時の私が考えたことは、レースで結果を出すことは大前提。そしてそれと同時に、このヨットという競技に注目を集めなければいけないと考えました。誰からも関心を持たれないのであれば、そのスポーツ自体に未来がなくなる。だからプロセーラーは自分自身のために、このヨットというスポーツの魅力を発信し、世界を広げて仲間を増やしていく必要があると思ったんです」

 

現在、伊藝さんは主戦場であるレースとは別に、その企画力やSNSなどを武器に、多くのイベントを打ち出してヨット界の活性化に力を注いでいる。
多くのキールボートセーラーを輩出した大学対抗&U25ヨットマッチレースなど、携わるものは数多い。

 

こうしたセーリングの魅力に気がつく機会の創出を、これからは若い世代のセーラーがしていくことが重要だと考えているそうだ。

「例えばナクラ17級で活動する渡部雄貴さんと植田 実さんや、YouTubeでヨット活動の動画を公開している斎藤伸行さん(以下に写真と紹介あり)たちのように、自分たちのセーリングの様子をオンラインで積極的にPRする人たちが今の時代は必要なんです。自分としても彼らの活動の相談に乗ったり、機会を提供したりするなど個人的に応援しています」

 

最後にそんな伊藝さんが、プロセーラーとして伝えたいことがあるという。

「悔しいけど、今でも自分よりヨットが上手な人はたくさんいます。それでも、ヨットを普及させるために働きかけてきたことの多さなら、この20年間で日本一だという自負がある。それをするのに、今の時点でヨットが上手、下手はあまり関係ないんですよ。若いセーラーたちには、ぜひ自分が今楽しんでやっていることに自信を持って、それを周りの人たちに広げてほしいと思います。そのために手伝えることなら、私でよければいつだって協力しますと伝えてください。それがこの仕事の役目の一つだと思いますから」(伊藝さん)

 

伊藝さんのほとばしるヨットへの情熱にあてられて、聞いてる側も胸の内側が熱くなってくる。プロセーラーとは「日本で一番ヨットに熱い人たち」でもあるのだろう。その熱さこそが、この世界を広げる原動力になっていく。

 

1972年生まれ。神奈川県川崎市出身、両親は沖縄県生まれ。海の近くで生活をしている内に自然とヨットにのめり込むようになり、2000年のニッポンチャレンジの選考に合格。以降プロセーラーとして、マッチレースやTP52など国内外の主要なレースで活躍を続ける

 

 

埼玉県生まれ。大学で部活に入部してヨットを始める。卒業後は銀行に就職するが、学生時代にヨットで結果を残せなかった悔しさを晴らすために、ヨットを中心にした生活をすることを決意して退職。現在はさまざまなヨット関連の仕事をする傍らで、「週末セーリング channel」というYouTubeチャンネルを開設し、日々ヨットの魅力を発信する活動をしている

photo by weekend sailing ch

 

乗った船のパフォーマンスを高める技量と、セーリングの世界を広げようとする意識と行動が何よりも大事だ。

 

(問)伊藝ヨットサービス
神奈川県三浦郡葉山町下山口1251-3
TEL: 090-3548-5412
http://igei.net/

 

(文=川野純平/舵社 写真=山岸重彦/舵社)

 

※本記事は月刊『Kazi』2024年1月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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