ボートの安全航行について/帰港時に気をつけたいこと

2021.05.31

ボートの航行時に気をつけたいことは多々ある。
知っているつもりでも、忘れていたり、勘違いして覚えていたりすることもあるので、定期的にブラッシュアップしたいところ。

ここでは、月刊『ボート倶楽部』2021年5月号に掲載した記事から抜粋して、「帰港時における気をつけたいこと」を紹介しよう。
指南していただいたのは、東京夢の島マリーナのハーバーマスターと副ハーバーマスター。
帰港時にありがちなトラブルやその対処法を教わった。

※本記事の取材は2021年3月に実施したもの。

 


大切なのは無理をしないこと

 

帰港時に、自艇が思ったより風に流されて、他艇にぶつけてしまったり、あわやぶつかる! という事態になった方は少なくないのでは。
自分のボートがどのくらい流されるのかは、事前に知っておいたほうがいいだろう。釣りのときなどは、どの方向にどの程度流されるのか、シビアに考えるのと同様に、どのくらいの風がどの方向から吹けば、どういった姿勢でどの程度流されるのか、これらはなんとなくでいいので感覚で覚えておきたいものだ。

また、一番流されやすいのは、ロープやフェンダーなどを準備しているとき。なので、帰港準備は早めにしておきたい。
とはいえ、ロープが外に垂れていたりすると、プロペラに巻き込んでしまったりと、別のトラブル要因になってしまうので、そこにも注意したい。

 

舫い(もやい)ロープやフェンダーなどの帰港準備は、早めに安全が確保できるエリアで行いたい。また、船長でなくとも、準備中にはワッチを心がけておきたい

 

なお、マリーナとしては、「そこまで無理してご自分のバースに入れなくても、ゲストバースに留めていただくこともできるので、風が強いときなどは利用してほしいですね」とのこと。
マリーナにもよるのだろうが、選択肢の一つとして頭に入れておくのもありだ。

こうしたトラブルはビギナーに多いのだろうと思いきや、意外や意外、「慣れている人のほうが多いかもしれません」とのこと。できると思っていて、不意の風に流れたりといったことがあるそうだ。
そういう状況が想定されるときは、桟橋とは反対側にもフェンダーを付けておくといい。
また、ボートフックを積んでおけば役に立つ。ボートフックは、着岸で距離が足りなかったときなどにも使えるので、必ず積んでおきたいアイテムの一つだ。

そして、着岸時に飛び降りるのも、やめておきたい。
飛び降りなければならない状況であれば、無理せずもう一度アプローチし直そう。
船長が、着岸してロープを持って降りようとしたら落水した事例もある。一人だと桟橋に上がれないことも、ボートに挟まれてしまうことも考えられるため、非常に危険だ。
また、落水した場合、ボートは無人で流されることになるので、その点でも危険。

 

「船長は安全に降りられる距離に自艇を着ける」、「クルーは安全に降りられる状態になるまで降りない」、というのを肝に銘じておきたい。一人ならば、なおのこと、安全に着岸してから、落ち着いて降りるようにしたい

 

同様に、岸でロープを受け取ってくれる人がいる場合も、ロープを投げるのはやめたい。
届かなかった場合、ロープが水中にあるときはプロペラは回せなくなる。つまり、ボートがアンコントロールの状態になってしまうので、極力避けたいところ。
とにかく無理をせず、確実性を持って着岸させることが大切だ。

 

NG例として、あえて距離のあるところから桟橋に向かってロープを投げてもらった。たとえロープが届いたとしても、こんなに離れている距離を風の強い日に人力で引き寄せるのは至難の業。別のトラブルにつながるので絶対にやめておこう

 

ロープといえば、係留保管艇の場合、バースに置き舫いをしている方も多いだろう。毎回調整しなくていいので便利なのだが、そのぶん着岸の難易度は上がっている。
置き舫いは、ボートを着けたときにベストな位置になるようにしているため、余分があまりないからだ。
この場合、風が強そうだなと感じたら、別のロープを念のためにつけておいて、そのロープを決めてから、置き舫いを掛ける、ということを推奨したい。

 

また、釣りバリが掛かってしまうこともあるので、出港して、帰港するまでの間、ロープやフェンダーはしまっておいたほうがいい。釣りをしているときに掛けてしまって、あとで外そうと思っていてすっかり忘れてしまって、帰港時にケガをして気づく、といったことも考えられる。
なにより見た目にも格好悪いし、ロープを踏んで滑ることもある。あまりいいことはないので、とにかく出港したらしまってしまおう。

 

それから、曳き波にも気をつけたい。まず自分のボートがどのくらいのスピードで曳き波を立てるのか、確認すること。ボートによって曳き波が立つスピードは異なる。
例えば出力の大きいエンジンを積んでいれば、微速位置でも速いということもある。その場合は、シフトを入り切りしながら進まないといけないだろう。
また、「結構、クルマのアクセルを緩める感覚の方が多いんじゃないでしょうか。それではスピードは落ちきらず、半滑走状態になるだけで曳き波は立っているんですね。まずはしっかりニュートラルにして波を一度切ってから、またスピードを作っていただければと思います」とのことで、一度、ニュートラルにすることをオススメする。

 

曳き波の一例。東京夢の島マリーナの前も徐行区域だが、結構なスピードで通過していくボートもあるのだとか。係留しているフネへのダメージも考え、係留艇の近くでは徐行するように気をつけよう

 

最後に、帰港時に毎回燃料を満タンにするクセをつけておきたい。そうすれば、ガス欠の何割かは防げるだろう。
"今日は大丈夫だろう"というのを何回か繰り返していると、ガス欠になったりするからだ。
また、メーター表示の異常にも気づきやすい。ガス欠の原因はメーター表示の異常によるところが大きい。頻繁に乗っていれば、どの程度走れば、どのくらい減るかわかるので、メーターが減っていないことに気づけるが、慣れていないとわからない。毎回満タンにすることで、慣れていなくとも気づけるのは利点だろう。

また、最低限、クリート結び、舫い結び、巻き結びくらいは覚えておきたいところ。
覚えたつもりでも、忘れていたり、勘違いしていたりすることもあるので、何度でも復習したい。

 

左列からクリート結び、巻き結び、舫い結びの例。それぞれの手順を、上から下に向かって紹介した。
ささっとロープワークを決める姿は非常にスマート! 動画などでも確認できるので、ぜひとも定期的に復習しておきたい

 

安全に十分注意して、楽しいボートライフを送りましょう!

 

東京夢の島マリーナ
海上係留で660隻の収容規模を有する、東京都立夢の島公園内にある大規模マリーナ。東京湾や都内の運河に精通したスタッフが常駐する。海の駅としてビジターの訪問も多いマリーナだ
TEL:03-5569-2710

 

(文=BoatCLUB編集部/茂木春菜、航空写真(トップ写真)=矢部洋一、写真=瀧 学)

 

※本記事は、『ボート倶楽部』2021年5月号の特集「トラブル予防&対処法」より抜粋。
バックナンバー電子版最新刊も、ぜひご覧ください。

 


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