居住性能も抜群の高速トライマラン|ドラゴンフライ32

2023.02.08

北欧デンマークのコーニングボート(Quarning Boats)社は、トライマラン(三胴艇)を専門に手掛けるビルダーとして知られている。1967年創業、50年以上の歴史を持つ老舗だ。現在は「ドラゴンフライ(Dragonfly)」というブランドで、25、28、32、40という四つのモデルを手がけており、トライマラン専業ビルダーならではの豊富な経験を活かし、ハイクオリティーなボートを建造している。

昨秋に取材の機会を得たのは、日本1号艇となる「ドラゴンフライ32」(ツーリングバージョン)。筆者は25、28と、ドランゴンフライ・シリーズの国内での取材に立ち会ってきたが、これら2モデルがスポーツボートの延長線上にあったのに対し、この32は、明らかに外洋航海も視野に入れたセーリングクルーザーであるなあという印象を受けた。

トライマランを知り尽くしたビルダーの手掛けるモデルだけに、随所に散りばめられたアイデアや工夫には、何度も感嘆の声を上げた次第。やはり長い経験とユーザーからのフィードバックというのは、一朝一夕にはなしえないものである。より魅力的な艇へと、進化を続けているのだろう。

カタマラン(双胴艇)やトライマランといったマルチハル(多胴艇)に対してアレルギーを持っているセーラーは、日本ではまだまだ多いと感じる。ただし、百聞は一見に如かずだし、食わず嫌いならもったいない。

このドラゴンフライ32に乗る機会があったなら、セーリングやヨットに対する概念が覆されるはず。そのパフォーマンスに、きっと驚かされるに違いない。

 

取材当日の相模湾は、風速8~9ktほどのコンディション。ファーリング式のコードゼロを展開して走る。ビームリーチングでの艇速は10ktを超える。

 

両サイドのアマ(フロート)を展開したときの全幅は8.00m。中央の船体のチャインが入った形状も独特のものだ。

 

全長30ftを超えるサイズのトライマランだが、ファーリングや電動ウインチといった艤装品を装備しており、少人数でもハイスピードのセーリングを楽しむことができる。

 

モノハルと比べると、船上には圧倒的に広いスペースが広がっている。25や28は船外機仕様だったが、この32は船内機仕様(取材艇はヤンマー3YM20)。

 

深く掘り込まれたコクピットは安心感がある。ステアリングはティラーではなく、シングルホイールを採用。

 

ヘルムスマンシートの脇には、大きなロッカーがあって、長く溜まったロープをしまっておくことが可能。

 

アマを開閉するアームの付け根の部分。アマの展開/収納作業ではコントロールロープを引くが、電動ウインチを備えていたので、びっくりするほど簡単だった。

 

アマを収納したときの全幅は3.60m(展開時は8.00m)。陸上保管する場合でも、上下架も含めてモノハルと変わらない条件だといっていいだろう。

 

ラダーはキックアップ式になっている。センターボードも昇降式なので、ビーチングして楽しむようなシーンも想像することができる。

 

船首周り。コードゼロ、ジブともファーリング式。ジブファーラーのロープやコードゼロのタックロープは、いったんデッキ下を通ってコクピットにリードされるので、デッキ上はすっきりしている。

 

メインキャビンの全景。中央のテーブルを挟んで左右にシート、手前側は左舷にチャートテーブル、右舷にギャレーという配置となっている。質感の高い船内空間だ。

 

明るく広々としたメインキャビン。コンパニオンウェイの下の階段をスライドさせると、クォーターキャビンへの出入り口が現れる。

 

左舷側の床面は高くなっているため、右舷側のシートに座る場合は、足下のフットレストを展開する。こうすると左舷側と足下の高さが同じになる。左舷側のシート下には大きなロッカー。

 

ギャレーのサイズも十分であり、シンクとコンロ×2を備える。クルージングや船中泊の際もストレスなく過ごせるだろう。

 

チャートテーブル兼カウンター。船内空間のヘッドクリアランスの高さも特筆すべきポイントだ。

 

クォーターには、ダブルサイズのバースが備わっている。オレンジ色の救命浮環の横(手前)のブラインドを開けると、エスケープハッチがあるので光を取り入れることもできる。

 

フォアキャビンのバースもダブルサイズ。長さが2m以上あるので、背の高い人でも足を延ばしてゆったりと寝ることができるだろう。

 

トイレルームも、スペース、ヘッドクリアランスともに十分。ウオッシュボウル(手洗い)も備わっている。

上質な木材を使った船内空間のインテリアも、センスにあふれている。高速セーリングを楽しめるだけではなく、広々とした船内空間も備えているというのは、ドラゴンフライ32ならではの大きな魅力といえるだろう。

ブルーウオーター派、そして初めてマルチハルに乗る方にもおすすめしたい一艇だ。

 

(文=舵社/安藤 健 写真=鈴木教之 取材協力=葉山マリーナ)

 

ドラゴンフライ32|西村一広さん(プロセーラー)と加原和洋さん(ファーストマリーン)による詳細解説動画もチェック↑↑

 

【SPEC】
●全長:9.80m(アマ展開時)/11.99m(アマ収納時)
●全幅:8.00m(アマ展開時)/3.60m(アマ収納時)
●喫水:0.55m/1.90m
●重量:3,400kg
●セールエリア:メイン48㎡、ジェノア26㎡、ジェネカー95㎡、コードゼロ57㎡
●エンジン:ヤンマー3YM20
●価格:問い合わせ
※スペックは全てツーリングバージョンのもの

(問い合わせ)
ファーストマリーン
TEL: 046-879-2111
https://www.firstmarine.co.jp/

 

月刊『Kazi』2022年1月号には、西村一広さんによる「ドラゴンフライ32」のインプレッション記事を掲載。こちらも是非ご覧ください!


あわせて読みたい!

●2/3発売、月刊『Kazi』3月号|特集は「セーラーの物欲。」

●外洋への扉を開こう!DMG MORIセーリングアカデミーの研修生募集

●AC日記202302|ETNZ、陸上スピード記録(2022.12.11現在)

 

 


ヨット

ヨット の記事をもっと読む