岡田豪三氏に聞く/クルージングでも重要な“速さ”と“早さ”

2020.12.06

スクールで400人を教えた
岡田豪三さんに聞く

ヨットスクールのインストラクターとして400人以上を教え、毎年のように国内外のクルージングゲレンデを旅している超ベテランセーラーの岡田豪三さんに、「クルージングとスピード」というテーマで話を聞いた。

 

クルージングにおいても
重要な“速さ”と“早さ”

岡田さんは若い頃はロングレースに没頭し、パンナムカップや太平洋シングルハンドレースといった国際レースにも参加した熱心なレーシングセーラーだった。

1998年にISPA(セーリングに関する国際資格プログラム)のインストラクターとなって以降は、ISPAの本拠地であるカナダのクルージング環境にほれ込み、スクールのテーマの一つ「クルージングライフスタイル」の普及に努めてきた。訪れた海域は、日本はもとより、南太平洋、地中海、アドリア海、南東アラスカ、北欧など、まさに地球規模。

そんな、船旅を知り尽くした岡田さんに、クルージングにおけるスピードについて聞いてみた。想定したのは、大洋を越えるようなロングクルージングではなく、日本沿岸のクルージングである。

 

岡田豪三さん。75歳。ヨット歴50年以上。1980~1990年代にかけてはロングレースに没頭し、1998年からはISPAインストラクターとして活躍。体系的なヨットトレーニングの普及に努めてきた。

 

クルージング艇でも
速く走るためにうまくなろう

「最初に言いたいのは、クルージング艇でも、速く走るための努力をしようということです。目的地への到着が遅れることは危険につながるので、速く走ることは安全のためでもあります。そのためには知識や技術が必要なので、スクールでいろんなことを教えています」(岡田)

こちらが用意していた質問をする前に、岡田さんは話し始めた。

「まずは基本的なセールトリム。クルージング中にセールを引きすぎていたり、出しすぎてバタバタいわせながら走っている船をよく見かけます。レース艇のシビアさは必要ありませんが、外から見てちゃんと走っているな、と見えるような走りをしてほしいですね」

ヨットレースと違い、クルージングにおいては目的地、つまりコースが先に設定されていることがほとんどだ。

「クルージングではヘディングを合わせて真っすぐ走ることが多いと思います。そんなときは、基本的に風の方向か強さが変わったらセールを調整します。ヒールに関しては船の種類によって違ってきますが、軽い船では風上に体重移動するくらいのことはしてほしいですね」

 

航海計画を守りながら
できるだけセーリングで

「機走や機帆走をしている船が非常に多いんです。何のためにヨットをやっているのかなと思うほど(笑)。他人の遊び方をとやかく言ってはいけないと思いますが、アビームで5m/sくらいの風が吹く絶好のコンディションで機走している船を見ると、なんで! って思ってしまいます。パワーボートではなく、せっかくヨットを選んだのだから、セーリングの技術を使ってほしいですね」

とはいえ、無風でもとにかくセーリングすべきと言っているわけではない。

「クルージングの航海計画は、海図上に目的地までの最短コースを引いて、船種にもよりますが、だいたい5kt平均で所要時間を計算します。海上で風が落ちてきて、スピードが4ktを下回ったら機帆走に切り替えます」

セーリングできるときはセーリングして、スピードがなくなったら機帆走に切り替える──クルージングでは、こういう考え方が必要なようだ。メインセールは残しておいて、風が吹いてきたらすぐにセーリングできるようにしておく。

 

強風時こそ
セールは降ろさない

逆に強風時はどうか。

「強風になったらセールをすぐに降ろす人は多いですが、そんなときでもリーフしたメインセールを揚げて、少しだけ風を入れて走ったほうが船が安定して、結果的に安全です。セールをすべて降ろして機走するとローリング(横揺れ)がひどくなって危険です。機帆走であっても、メインセールがあるほうが船をコントロールしやすいんです」

追い風の強風の場合は少し状況が違ってくる。

「ランニングでメインセールを揚げているとローリングがひどすぎるときは、ジブだけで走るという方法もありますね。荒れてしまってからメインセールを降ろすのは大変ですから、早めの判断が必要です」

このように、できるだけセーリングで走るためには、セールチェンジやリーフ作業などの判断や作業の“早さ”も求められる。その早さは結果的に目的地への到着時間を早めることになる。

 

速く走るためには
事前の情報収集

安全に速く走るためには天候の予測も重要だ。テレビの天気予報や、多くの人が利用している1時間ごとの風向と風速の数字が並んでいるサイトを見るだけでは不十分だという。

「天気図の移り変わりを見るようにしています。テレビの天気予報は雨の降る場所を知ることばかりで、あれでは風の予測はできません。だから僕らセーラーは天気図で気圧配置を見て、風を読むんです」

いくつかのサイトから情報を集めたら、岡田さんは自分自身で、何時くらいにどんな風が吹くかを予想する。そうすることで全体的な天気の流れがつかめるようになるという。岡田さんがおもに利用している気象サイトは下でまとめて紹介する。

「計画したコースに対して、どんな角度から風が吹くかということが重要になります。例えば、目的地の方向から真向かいの風が吹くようだったら、1時間早く出航しようというような話になります。海図上に安全に走れる最短距離のコースを引いてから、風の影響を考慮して、速く走るためにこの島の風上側を走ろうとか、逆に風が強すぎるから風下側に行こうとかはありますよね。ヨットですから、常に風を利用する意識を持ちたいですね」

もちろん潮流の影響も加味して、できる限り追い潮(連れ潮)に乗れるようにするのがセオリーだ。

「特に潮流が速くなる“瀬戸”があるときは、基本的に潮が止まる時間(スラックタイム)に通過するようにして、そこからスタート時間を逆算することもあります。海上保安庁の潮汐推算のサイトを利用しています。もともと海図には満ち潮と引き潮のときの流向が示されていますが、海図上に自分で記入することもありますね」

 

“早く”“速い”クルージングを実現するためには、事前の情報収集が重要だ。その上で、当日の風に合わせてフレキシブルに対応する。

 

便利なものは使いつつ
半分アナログがおすすめ

自艇の位置を把握したり、目的地への到着時間を予測するのに便利なGPSプロッターなどの航海計器だが、頼りきりではいけないと岡田さんは言う。

「海図上に引いたコースに対する風や潮の影響を考えられる知識が基本です。天気図も読めないといけません。こうした知識がなく、デジタル航海計器だけを利用することはおすすめしません。気象サービスなども同じですが、元となる考え方を理解した上で便利に使うのが正解だと思います」

できるだけセーリングしてクルージングを楽しむためには気象予測が重要だが、そもそも、それに適した季節を選ばないといけない。日本の春は天候が不安定で、夏は風が弱く、夏の終わりは台風がやってくる。

「季節的には、秋から冬にかけてが、いいクルージングシーズンですね。1年のなかで一番長い時間セーリングで走れます。楽しみです」

 

特別公開!
岡田さんが利用している
ウェブ気象サービス

最近ではスマートフォンやパソコンで気象情報を得るのがスタンダードになった。最後に、クルージングの達人・岡田さんが利用しているウェブの気象サービスを四つ紹介しよう。

 

おもに天気図
■tenki.jp

https://tenki.jp/

 

風向と風速の予測
■WINDFINDER

https://www.windfinder.com/

 

雨雲の様子
■MyRadar

※スマートフォンアプリ

 

1週間先までの予想天気図
■BIOWEATHER SERVICE

http://bioweather.net/

 

(文・写真=Kazi編集部/中島 淳、トップ写真提供=岡田豪三)

 

※この内容は月刊『Kazi』2020年10月号に掲載されたものです。この号の特集は「賢いスピードアップ術」と題し、セーリングクルーザーのチューニングやセールトリム、潮を意識したナビゲーション術など、さまざまなテーマを収載しています。バックナンバーのお求めはこちら。電子版もご利用いただけます。


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