林 賢之輔さんの著書『あのころ』上梓[追記あり]

2021.04.29

このたび舵社から刊行された単行本『あのころ――ヨットデザイナーの履歴書』は、1960年代からヨットの設計を始め、その後、レース艇、クルージング艇を問わず、さまざまなヨットの設計を手がけてきた林 賢之輔さんが、60年近くに及ぶ自らの仕事を振り返った一冊。月刊『Kazi』2016年3月号から2020年6月号まで「ヨットデザイナーの履歴書」のタイトルで連載された記事に加筆・修正を加え、一冊にまとめたものです。

林さんがこれまでに設計したフネの数は全部で109艇。堀江謙一氏の世界一周艇〈マーメイドⅢ〉の設計やニッポンチャレンジへの参画など、林さんが携わってきた最前線の出来事は、そのまま"日本のヨット発展史"ともいえる航跡です。ヨット歴の長いセーラーなら、一読しただけで「ああ、そんなヨットがあったね」と懐かしい思いを抱くことでしょう。

 

〈翔鴎〉(60ftスループ/岡崎造船建造)のステアリングを握る著者、1986年の姿

 

林 賢之輔さんが設計したヨットの一部

初の設計艇〈昌代〉(7.5mスループ・1970年進水)

 

1974年、堀江謙一さんが単独無寄港世界一周を達成した〈マーメイドⅢ〉

 

1990年、ニッポンチャレンジの1号艇〈ニッポン〉の進水式。設計チームの一員を務めた

 

国内外の長距離レースで活躍した34ftファストクルーザー〈第一花丸〉

 

ブルーウオーター派に支持を集めたプロダクション艇「トレッカー34クラシック」

 

本書を読んだら、なんだか林さんの人生がうらやましくなりました。好きなことを仕事にして、一時代を築き、顧客に喜ばれるって、素晴らしいじゃないですか。決してきれいごとだけが書いてあるわけではなく、失敗も含めて振り返っているので、リアリティーがあります。
正直なところ、理数系に弱い者にとっては、一部のヨットデザインに関する技術的な記述は難しいと感じる箇所もあります。でも、そこは飛ばして読めばOK。クレバーな文章で綴られたメインストーリーは読みやすく、知見にあふれ、読み応え十分。ヨットを通じて林さんと知己を得た、海を愛する魅力的な人物が数多く登場するのも見逃せません。ヨット乗りなら必読、圧巻の384ページです。

 

(文=舵社/クボタヒデヤ)

 

[追記]林 賢之輔さんからのメッセージ

海は広いな大きいな
月は昇るし日は沈む
海にお舟を浮かばせて
行ってみたいなよその国

子どものころに教わった小学校唱歌です。

海の上で昇る月や沈む太陽を見ていると、表情がさまざまに変化して、宇宙の中に存在する生命体としての地球を実感することができます。きらきらと輝く海、流れる雲、夜空の星たち、何万光年、何億光年の彼方からそれだけの時間をかけて届いた無数の小さい光。
太陽が放出する莫大なエネルギーの恩恵を受けて私たちは生きていますが、地球自身も生きていて、春夏秋冬、毎日起こる潮汐、火山噴火、地震津波、台風などの自然現象を生み出しています。宇宙の時空間にくらべて、人間世界の時空間は極小瞬間に過ぎません。
その瞬間を満喫する方法は人によってさまざまだと思いますが、セーリングも選択肢に入れてください。飛行機なら10時間で行けるところへセーリングで移動すると40日以上かかるでしょう。それだけ多くの楽しみや苦しみを味わうことができます。
目の前にある海は世界中の海につながっています。勇気と情熱を持って挑戦してください。
みなさまの航海の安全をお祈りいたします。

林 賢之輔

 

『あのころ――ヨットデザイナーの履歴書』
林 賢之輔 著
定価:2,200円(税込み)
B5判・並製・モノクロ384ページ

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