セーラーの秘密基地|英虞湾の桟橋付き別荘事情

2023.03.25

セーラー、ボーターの憧れ、桟橋付き別荘。 

そんな物件は実際にあるのだろうか。さらに言えば、私たちも持つことができるのか。 三重県の英虞湾(あごわん)に生まれ育った、さきしまマリーナ代表の福田清朗さんを訪ねた。 

いろいろなスタイルの秘密基地を見ながら、セーラーの夢、実現の可能性を探ってみる。 まずは英虞湾、ある岬の空撮を見てみよう(メインカット)。

こうしてみると多くの桟橋付き物件があることが分かる。

それらは現役の真珠養殖業者であったり、宿泊施設であったり。そしてもちろん、個人所有の別荘であったり。秘密基地への夢がふくらむ鳥瞰である。 

 

 

「まずは英虞湾を案内しよう」と英虞湾のさきしまマリーナの福田清朗さん。早速、友人の島田さんの〈NIPOTINI〉(R-27)を駆り、静かな湾をゆったり走る 

 

 

桟橋付き別荘のハードル

さきしまマリーナの福田清朗さんとはどういった縁か、いろいろな取材先でばったり会ったり(待ち伏せ説)、いろいろなテーマの取材に対応してくださったりと、舵社ぐるみでお世話になっている。今回も「桟橋付きの別荘=“秘密基地”を探してるんです」と相談すると「あるある。いつ来るの? はいよ~、はいよ~」と軽いノリで承諾してくださった。英虞湾には桟橋付きの別荘を持つセーラーが多いような気がするのですが? 

「多いといえば多い。でも、誰でも簡単に桟橋付きの別荘を持てるかといったら、難しい面もある」 

今回は意外とシリアスな福田さんだ。まず、海面使用権の問題。英虞湾はというか、日本全国多くの海面がそうだが、地元の漁業組合の許可を得なければ、勝手に桟橋を作ることはできない。しかし例えば、廃業した真珠養殖業者さんの物件を購入すれば、桟橋付きということになるのではないですか? 

「それがならない。英虞湾は漁協が漁業権を持ち、片田真珠養殖漁協組合はそこから権利をもらっている。そうした漁協関係の人なら桟橋を造る許可が下りても、一般の人となるとハードルがあがるんだね」 

福田さんは英虞湾の真珠養殖業者の3代目ながら、なぜか家業を継がずに祖父と父が所有した土地でマリーナ運営などをしている、ちょっと変わった(失礼)方ゆえ、このあたりの事情に詳しい。 

「海面使用料は実は安いんです。小さな浮桟橋なら年間数万円くらいかな。違ったらごめんよ。なので、許可をくださるならみんな許可が欲しい。心配事がなくなるなら安いですよね。でもなかなか下りない。かといって、許可を待った状態で桟橋を運用しても特に注意されないケースもあるし、すぐ注意されるケースもある。難しいってそういうことです」 

推測ではあるが、許可を出す側からすればどのような運用をするのか分かりにくいものは、許可を出しづらい面もあるだろう。商用利用に近いものもあるかもしれない。とりあえず、福田さんの案内で英虞湾の秘密基地を探しに行こう。 

 

 

英虞湾で生まれ英虞湾で育った福田さん。さすが地元セーラー。狭い水路もスイスイと走ります。近道を駆使してくださり、秘密基地を探す旅をスムーズに行えました。感謝 

 

 

英虞湾の桟橋付き別荘事情

こちらのお宅はスロープもあり。屋根の上に見える煙突はESSEの薪ストーブ。週末には海に面した大きな窓が開放され、友人を招いたパーティーを楽しむとオーナーが教えてくれた。すばらしい週末である 

 

 

小さな岬の上に立つ赤屋根の別荘。画家のBow。さんが描く絵の世界にそっくりな光景。階段を伝って崖を降りればそこに桟橋がある。「パラソルを立ててBBQをしてる日に撮影してほしかったな(笑)」とオーナー。きっとそこには楽しげな笑い声が響くのであろう 

 

 

あまりの高さにマストとは思わなかった。近づくとそれは巨大なケッチであることが分かる。横にはもう1艇のヨットも。手入れの行き届いた古民家とヨットが、不思議なコントラストを見せてくれた 

 

 

倉庫を改装、これもBow。さんがいだくイメージにぴったり。レストアされた建物には「賢島シーベース」の看板。タレントの所ジョージさんのような、大人が集まる遊びの基地なのである 

 

 

かわいいタコのイラストが目を引く〈オクトパス〉(ジャノー37.1)が舫われた別荘。「撮影するなら屋根や壁をきれいにしたかった」とオーナー。そんなことありません。十分にすてきです 

 

 

ちょうど草刈りに来ていた管理人のさっちゃんさんがいた別荘。大阪在住のオーナーは、週末ここにやってきてトーイングボートで英虞湾をピクニッククルージングするそうだ。なんともうらやましい 

 

 

陸側から桟橋を見る。パイルを打った固定桟橋の先に浮桟橋を設置。これで水深確保もばっちり 

 

 

ここはもと真珠養殖業者の持ち物。レールけん引式のスロープもあり。今週末、修理する予定です 

 

 

管理人のさっちゃんさんが、帰りに謎の南洋果物「ポポー」をくださった。まじでうまかった!

 

 

グランドバンクスが舫われた先には、美しき真っ白な母屋。水上小屋やパーティースペース、個人用レストランまで、秘密基地の理想が全部つまった別荘を発見 

 

 

秘密基地を巡る冒険

「まずは、桟橋付きの別荘にヨットやボートを舫ってるとこを回ろう。撮影の許可はあとでそっちで取ってよ(笑)」 

相変わらず豪快な作戦である。福田さんが操船する、友人の島田さんのクラシカルトローラー〈NIPOTINI〉(R-27)が、ゆったりと英虞湾を進んでいく。 

「実はさ、中村くん(筆者)からこの話が来たとき、ヨットを置いてる別荘なんて少ないよって思ったんだ。でもさ、こうやって見ると多いよな。お、あれもマストじゃねーか? じゃあ次、行ってみよう~!」 

ほぼその声のトーン&言い方は、ドリフターズのいかりや長介。スロットル、前進ズバーン。でも曳き波は絶対にたてない。足元が不安定な真珠養殖筏の上で作業する方々を気遣ってのことだ。さすが三代目(継いでないけど)。 

ところでこの秘密基地のそれぞれは、福田さんの知り合いですか? 掲載許可ってどうすれば? 

「僕の知り合いもいるし、ヨット&ボートサービスの田畑喜美雄さんが全員知り合いだから、聞いたらいいさ。問題なしさ~」 

出ました、THE 人任せ(笑)。でも田畑さん(合同会社ADVANCE代表社員)を紹介していただいたので安心です。そんな豪快な撮影取材を行っていると、とある桟橋付きの別荘から女性が出てきてなにやらこちらに手を振っている。瞬間、カメラマンは、「勝手に撮んなって怒ってはるかも」と言い出す。それはまずい。すぐにこの場を離れよう・・・と思ったが、手の振り方がフレンドリーに感じる。福田さん、あちらのお宅は知り合いですか? 

「ん? 知らないけど・・・。あ、知ってるな、さっちゃんやんか」 

聞けばこの女性は皆さんの友達で、この家の管理人をしているんだそう。すぐにオーナーに連絡を取ってくださり、掲載許可をいただくことができた。きちんと漁協に許可を得たこちらの桟橋は、登録艇以外着岸禁止とのことで、一度さきしまマリーナに帰ってから車で再訪した。これは、許可を得た桟橋で有償のビジター係留業務などができないようにとの対応ではないかとのこと。なるほど、勉強しなければいけないことはたくさんありそうだ。  

楽しく取材を終えた帰り道、英虞湾を見渡せる展望台からドローン撮影をしているところに、急に車がやってきた! と思ったらさっきのさっちゃんさんだった。唖然とする私たちに「ポポー、食べて!」と謎の果物をくださった。私たちは唖然としたままポポーを食べた。それは、プリンのようなカスタードクリームのような不思議な味だった。 

さまざまなおもてなしを受けた英虞湾のラストにいただいた甘い果物。それは、捉えどころのない、でもすっごく温かい、英虞湾の人々を表すような味だった。 

 

 

それぞれのオーナーとの連絡に尽力いただいたADVANCEの田畑喜美雄さん。感謝です!

 

 

やいのやいのと英虞湾を案内してくださった福田さん。セーラーの憧れ、桟橋付きの秘密基地を持つ夢が、少しだけ前進したような気がします。ありがとうございました!

 

 

英虞湾の風景をもう一度。セーラーの秘密基地。いつかは持ってみたいものです

 

 

(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)

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