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ヨットレース
泣き笑い。戦いは続く/ヴァンデ・グローブ実況

2021.02.05

高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況(2021/2/5 金曜日配信)

 

■ダミヤン・セギャン 6着7位

トップ艇のフィニッシュで大いに盛り上がった先週のこのコーナー(〈Maître CoQ IV〉優勝!/ヴァンデ・グローブ実況)。
優勝を争う5艇にばかり注目して記事を書いてしまった。

すいません。

熾烈な5艇の戦いは、フィニッシュ目前で漁船と衝突したボリス・ハーマン(39歳/男性/ドイツ)の〈SEAEXPLORER - YACHT CLUB DE MONACO〉が、1月28日10:19:45(UTC)に5着フィニッシュ。
ボリス・ハーマンも救済タイムが6時間あり、4着フィニッシュのトマ・ルイヤン(39歳/男性/フランス)の〈LinkedOut〉をわずかにかわして逆転した。

 

で、今日の話題はここから。
〈SEAEXPLORER - YACHT CLUB DE MONACO〉の5着フィニッシュから、わずか58分35秒後の11:18:20(UTC)。ダミアン・セギャン(41歳/男性/フランス)の〈GROUPE APICIL〉がフィニッシュした。

〈GROUPE APICIL〉は、2008年進水のカンティングキール+ダガーボード艇。つまりフォイルはない。ノンフォイル艇だ。
この艇、「VG(ヴァンデ・グローブ) 2008-2009」では、〈DCNS〉としてMarc Thiercelin(フランス)が乗り、スタート直後にマストが折れてリタイアしているが、前回「VG 2016-2017」では〈Comme un seul homme〉として、Éric Bellionが乗って9位に入っている。その間、2012年には映画『ターニング・タイド 希望の海』(原題:En solitaire)の撮影でモデル艇として使われている。

と、決して名艇とも言えないノンフォイル艇ながら、先行5艇をピッタリと追走しており、ジャンカルロ・ペドロ(45歳/男性/イタリア)の〈PRYSMIAN GROUP〉とともに、 "先行7艇" の座にもあったのだが……。

 

photo by Yvan Zedda / Alea

 

ダミアン・セギャンは、生まれつき左の手首から先がない。
パラリンピックの2.4mR級で、
2004年(アテネ) 金
2008年(北京) 銀
2012年(ロンドン) 4位
2016年(リオ) 金
と、パラセーリング界にあっては絶対王者ともいっていい地位を確立。

そこから、外洋レースに挑戦するところがすごい。こちらはもう片手がないからといってハンデはもらえず。おまけに艇はノンフォイルで、こちらもハンデはなし。

しかし、スタート翌日の11月9日から10日にかけてはトップに立っているし、その後、南大西洋の第2幕では13位まで落ちるも、第3幕のインド洋で再びポジションアップ。しっかりトップ艇団にくらいつき、ホーン岬は3番手の〈LinkedOut〉とほぼ同時に回っている。
ラストスパートの第5幕で中風域のリーチングとなると、さすがにフォイル艇には走り負けてしまったわけだが、片手がどうとか問答無用の見事な6着フィニッシュだ。

 

この後、ダミアン・セギャンにとっては外洋の師でもある、ジャン・ルカム(61歳/男性/フランス)の〈YES WE CAM!〉が19:19:55に8着フィニッシュ。
救済タイム16時間15分を持つ〈YES WE CAM!〉が逆転して4位。
ダミアン・セギャンは6着7位ということになる。

 

ヘビーなコンディションの中で〈PRB〉ケビン・エスコフィエを救出し、なおかつ8着でフィニッシュしたジャン・ルカム
photo by Vincent Curutchet / Alea

 

フィニッシュしたジャン・ルカム(左)を迎えたダミアン・セギャン(右)。師弟の再会
photo by Yvan Zedda / Alea

 

■クラリス・クレメール 12位

ヴァンデ・グローブは、ノンフォイルだろうが片手だろうが女だろうが、ハンデはなし。ガチの勝負。
……ではあるが、やはり気になるレディースの部。

女子筆頭のサマンサ・デイビーズ(46歳/女性/イギリス)の〈INITIATIVES-COEUR〉は、第3幕早々の南アフリカ沖で艇を壊してリタイア。
後を託された〈MACSF〉のイザベル・ヨシュク(43歳/女性/フランス、ドイツ)も、ホーン岬通過後、カンティングキールの制御部が壊れてリタイア。
両者とも、自力で避航しているのはすごいけれど。

ここで、女子トップに立ったのが、クラリス・クレメール(30歳/女性/フランス)だ。

ショートハンド外洋レースの分野では圧倒的な強さを誇るフランスヨット界だが、女子のショートハンドでは英国に一歩譲ると言ってもいい。
ここは、2024年パリ五輪に向けて外洋女子強化、ということか。強豪BANQUE POPULAIREチームは、若い次世代女子スキッパーを擁立する。
それが、クラリス・クレメールだ。

 

photo by Bernard Le Bars / Alea

 

クラリス・クレメールは、特筆するセーリング・キャリアを持たない。
HEC Parisというビジネス・スクール在学中にヨットを覚え、出場した2017年のミニ・トランザットでいきなり2位に入る。以降、メキメキ頭角を現す。

前回優勝のアルメル・ルクレアシュ自らコーチを務めているが、使用艇は彼が乗った〈BANQUE POPULAIRE VIII〉ではなく、1世代前のノンフォイル艇だ。
これは予算の問題ではなく、経験の浅いクラリス・クレメールにはノンフォイル艇のほうが良いという判断で。第1世代のフォイル艇〈BANQUE POPULAIRE VIII〉に実際に乗って優勝したアルメル・ルクレアシュが、フォイル艇の扱いの難しさを身をもって感じた選択ということだ。

とはいえ、彼女のために用意された〈BANQUE POPULAIRE X〉は、「VG 2012-2013」でフランソワ・ガバールが乗って優勝した元〈MACIF〉で、つまり、ノンフォイル最終世代で最速艇と言ってもよい。

このようなBANQUE POPULAIREチームの万全のサポート体制があるとはいえ、いざ海に出てしまえば、すべてを1人でこなさなければなないのが外洋の世界。ここでは男も女も関係ない。

 

ホーン岬通過後は安定しない天候と艇のトラブルが続き、泣きが入るクラリス。
こんな動画を送って来て、いったいどうなることかと思いきや。これがさすがにBANQUE POPULAIREチームが次世代の星と見込んだ30歳は、すぐに復帰。

 

……と、ゴキゲンな様子。

そして、2月3日 15:44:25(UTC)。みごと12位。女性1位。ノンフォイル5位。で、フィニッシュした。

 

女性トップフィニッシュは、クラリス・クレメール。ヴァンデ・グローブ初出場の30歳
photo by Le Bars / Alea

 

■コージローの戦い──15位争いの行方は

この原稿を書いている時点で、出場33艇中12艇がフィニッシュし、13艇がレース続行中だ。

というところで、"僕らのコーチャン"こと白石康次郎(53歳/男性/日本)の〈DMG MORI Global One〉はどうなっているかというと……。

これがまた、先週お伝えしたトップ5艇の大接戦に匹敵するような大激戦の4艇が……こちらは15位争いを繰り広げている。

 

4艇が50マイル以内にひしめいて、ここで勝てば15位、負ければ18位。大きく違う。

 

photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One

 

コージローのライバルは、どんな3艇かというと。

 

photo by Alan Roura / La Fabrique

 

〈LA FABRIQUE〉アラン・ルラ(27歳/男性/スイス)
https://www.vendeeglobe.org/fr/skippers/99/alan-roura

若いが、2度目のヴァンデ・グローブ出場。前回「VG 2016-2017」は12位。
その前は、Mini6.5からClass40と、ショートハンド外洋系の王道を歩んでいる若者で、艇は進水直後の「VG 2007-2008」にアルメル・ルクレアシュが乗って2位になった元〈Brit Air〉。
「VG 2016-2017」は、〈MACSF〉としてBertrand de Brocが乗るも、キールトラブルでリタイア。
それをアラン・ルラが買い、「VG 2020-2021」に向けて完全オーバーホールするとともに、フォイルも装備した。
スタート前には「1度目の出場時の目標は完走だったが、今回は10位以内に入り、2024年は優勝を目指す」と言っていたアラン・ルラ。
今回はもう10位は無理だが、となると、ここはなんとしても15位には入りたいところだろう。それが、次の目標である優勝につながるわけで……。

 

photo by Stephane Le Diraison / Time For Oceans

 

〈Time For Oceans〉ステファン・ルディレゾン(44歳/男性/フランス)
https://www.vendeeglobe.org/fr/skippers/94/stephane-le-diraison

こちらも、mini6.5からClass40で実績を積んできたバリバリのフレンチ・ショートハンド外洋系で、これが2度目のヴァンデ・グローブだ。
艇は2007年進水。上記〈Brit Air〉のシスターシップだが、こちらは〈Hugo Boss〉としてアレックス・トムソンが乗るも、ハルにヒビが入りリタイアしている。
前回「VG 2016-2017」は〈Compagnie du Lit-Boulogne Billancourt〉として、ステファン・ルディレゾン自身が乗って出場したが、オーストラリアの南でマストが折れ、無念のリタイア。なんかちょっとコージローと被る。
今回はその同じ艇を徹底的に整備し、もちろん折れたマストも新調し、さらにフォイルも装備しての再挑戦となる。

 

photo by Arnaud Boissieres / La Mie Caline

 

〈LA MIE CÂLINE - ARTISANS ARTIPÔLE〉アルノ・ボワシエール(48歳/男性/フランス)
https://www.vendeeglobe.org/fr/skippers/88/arnaud-boissieres

これが4度目のヴァンデ・グローブとなる大ベテラン。
やはりmini6.5出身のようだが、最初の「VG 2008-2009」は〈Akena Verandas〉で7位。105日2時間。
「VG 2012-2013」も〈Akena Vérandas〉で8位。91日2時間。
「VG 2016-2017」は〈La Mie câline〉で10位。102日20時間。
とすべて完走。おまけに10位以内と、安定したヴァンデ・グローブ常連といえる。
ちなみに、前回も上記アラン・ルラとは接戦が続き、最後の第4幕(北太平洋北上)で振り切って勝負をつけている。

 

と、これまた、個性豊かなフォイル艇4艇の最後の勝負も見物ですぞ。
残航1,400マイルなので、フィニッシュは2月8日(月)あたりか?

 

『Kazi』4月号(3月5日発売)の原稿アップ締め切りは2月12日なので、今度はじっくり……原稿書けるのか。
おっと、その前に『Kazi』3月号(2月5日発売)が届いていた。これから読みます。

 

(文=高槻和宏)

※「舵オンライン」では、毎週金曜日に「高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況」をお届けしています。

 

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高槻和宏(たかつき・かずひろ)
1955年生まれ。神奈川県在住。ヨット、ボート、カヌーなど、ジャンルを問わず海を遊ぶマリンジャーナリスト。月刊『Kazi』の人気筆者として、長年さまざまな記事を手がける。『虎の巻』シリーズ、『ヨット百科』など、ヨットに関する著作多数。


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