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SAILBOAT RACING
天国と地獄/ヴァンデ・グローブ実況

2020.11.17

高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況(2020/11/18 水曜日配信)

スタートから9日経った。
公式トラッキングマップに記載される時間表示も、フランス時間とスタートからの経過時間だったのが、船内時計のUTC(協定世界時)に変わった。
「ヴァンデ・グローブ 2020-2021」は、スタート直後の第1幕から第2幕へ舞台を移そうとしている。

 

■第1幕 最終

第1幕のクライマックスは、やはり熱帯低気圧「シータ(Theta)」だろう。
トラッキングマップで見るかぎり、先頭集団は熱帯低気圧を避けることなく突っ切ってスピードアップしているように見えるが、各艇それぞれなんらかのトラブルはあったようで……。

先頭を航く優勝候補筆頭〈HUGO BOSS〉のアレックス・トムソン(46歳/男性/イギリス)もいくつかのトラブルに見舞われたようだが、すぐ後ろから迫るライバル艇に手の内は明かせないということか、船内からのインタビューでは詳しくは触れていない。あえて苦労は語らず。
第1幕の最終章、貿易風帯を快調に飛ばしている。

 

コクピットを完全に覆うような特殊なデザインを採用した〈HUGO BOSS〉。グラインダーを回すといったデッキワークも、船内で行うことになる

 

■〈CHARAL〉が追う

一方、浮遊物が当たってラダーを損傷したジェレミ・ベユー(44歳/男性/フランス)の〈CHARAL〉は、修理を終えてレ・サーブル・ドロンヌから再スタート。はや赤道に届くかという先行艇を追う。

11月8日のスタートから、わずか2日後に浮遊物でラダーを損傷。バックステイも切れたため、スタート地点まで600マイルもの距離を引き返しての修理を決断。スペアのラダーはあるとのことだったので、単に交換するだけなら半日もあれば再スタートできるのでは、とも思っていたのだが……。

レイトスタートや外部の援助にはいくつか条件があり、今回のケースでは、レ・サーブル・ドロンヌの桟橋で浮かべたままでの修理となる。
損傷も、ラダーブレードのみならず、その取り付け部とコントロールアームも壊れており、これらは船体の強度部材も兼ねているとのこと。メインシート・トラベラーや、飛び散ったカーボンの破片で傷ついたコクピットなども合わせての大工事となってしまい、20人を超えるスタッフが必死の作業を続けたにもかかわらず、3日半もかかってしまった。

 

いったんレ・サーブル・ドロンヌに戻り、ラダーをはじめとする個所の大工事に着手した〈CHARAL〉
photo by Olivier Blanchet/Alea

 

現地時間11月17日17:10。9日遅れでの再スタートとなった。
前回(2016-2017)のペースにならえば、優勝のArmel Le Cléac'hのタイムが74日3時間。6日遅れでフィニッシュしても4位。13日遅れでも6位に入っているのだが……。

 

修理を終え、再び戦いの最前線に向かうジェレミ・ベユー〈CHARAL〉
photo by Olivier Blanchet/Alea

 

■〈CORUM L’Épargne〉ディスマスト

11月16日。7位につけていたニコラ・トルセル(46歳/男性/フランス)の〈CORUM L’Épargne〉が、突然のディスマストで戦列を離れる。

貿易風帯で "more than 20kts in gusty conditions" というから、さほど厳しい天候でもなかったはずだが。
夜明け前、船室(below decks)で寝ていたところ、突然の大きな音に飛び起きデッキに出ると、マストは倒れていたという。

今年5月に進水した、今回の参加艇中最も新しい艇で、スタート直後はすばらしいスピードを見せていたが、マストが折れてはどうしようもない。今回のリタイア第1号となる。やはり、準備期間が足りなかったか。

ニコラ・トルセルには怪我はなく、悪い波の中で折れたマストを片付け、船体には損傷はなし。機走でカーボベルデ(Cape Verde)に向かっている。4日はかかる。海は広い。

 

無念のリタイア第1号となってしまった二コラ・トルセル。スタート前のレースビレッジで
photo by Vincent Curutchet/Alea

 

■そしてコージロー

11月14日に、オートパイロットの故障による3度のワイルドジャイブを食らい、メインセール上部を大きく破いてしまった〈DMG MORI Global One〉の白石康次郎(53歳/男性/日本)。セールをデッキに降ろすことはできたが、修理には手間取っているもよう。

このサイズの艇のメインセールは柔らかいベニヤ板みたいなもので、ブームの上に載せマストにセットするだけで一苦労だ。一人で、それも揺れる艇上でとなると……降ろすにしても、破れた部分がバックステイに引っかかるなどし、一人がさばいて一人がタイミングを合わせてハリヤードを緩める、といったことすらできないわけで。
修理にしても、セールを全部外してキャビンの中に広げて……というのも無理だし。デコボコしたデッキの上での1人での作業となると、いやーこれは大変。
かといって、ここで諦めるわけにはいかない。

この原稿を書いている時点ではまだレポートは出ていないが、トラッキングマップを見る限り、14ktの風の中、7ktで走り始めているように見えるのだが……。

 

メインセールの修理といっても、その巨大なサイズゆえデッキ上での作業に限られる。したがって、夜間は作業をいったん中断せざるを得ないことが予想される
Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One

 

↑11月18日に公式チャンネルにアップされた動画。デッキでセール補修中の白石康次郎。周囲の風波はだいぶ落ち着いた模様(11/18 21:18 舵オンライン編集部にて追加)

 

■そして、赤道収束帯(doldrums)へ

先頭集団は、貿易風の中を快調に飛ばす。

 

11/17 21:00UTC(11/18 06:00JST)のトラッキングマップ

 

前回「ヴァンデ・グローブ 2016-2017」でアレックス・トムソンが打ち立てたデイラン(24時間の帆走距離)536.8Mの記録を破るのは間違いないだろう、と公式サイトの記事では湧いている。
それが、北半球でか、南半球に入ってからになるかはおいておいて。

先頭の〈HUGO BOSS〉を追うのは、トマ・ルイヤン(39歳/男性/フランス)の〈LinkedOut〉、シャルリー・ダラン(36歳/男性/フランス)の〈APIVIA〉といった新艇を操るイキのいい若手。そして旧世代のノンフォイル艇〈Yes We Cam!〉のジャン・ルカム(61歳/男性/フランス)も負けてはいない。

 

11月11日0900現在、2位につけるトマ・ルイヤンの〈LinkedOut〉
photo by Olivier Blanchet/Alea

 

61歳のジャン・ルカム〈Yes We Cam!〉は3位につけている。ノンフォイル艇だ
photo by Olivier Blanchet/Alea

 

第2幕への幕間(まくあい)は、赤道、ドルドラム(doldrums)。
よく「赤道無風帯」といわれるが、そこは南北の貿易風が収束する場所(Intertropical Convergence Zone)で、強い陽射しで温まった空気が上昇し冷えて雲となり、いきなりの雨や突風、落雷と、天候が安定しない海域だ。
晴れて無風のカーム(calm)は、高気圧の中心付近にある油を流したような海で、後続艇団はまさにこれ──東西に帯状に伸びる高気圧につかまって差が開いてしまったわけだ。

どうやら今年のドルドラムは、活動が活発ではないというか、風は残っているというか。
先頭集団は一気にドルドラムを突き抜けそうだ。

ヴァンデ・グローブは「天国と地獄」の大舞台なのだ。

 

(文=高槻和宏)

 

※「舵オンライン」では、毎週金曜日に「高槻和宏のヴァンデ・グローブ実況」をお届けしています。今週は都合により水曜日にお届けします。

 

●Vendée Globe公式サイト
https://www.vendeeglobe.org/en
●レースのトラッキングサイト(現在位置)
https://www.vendeeglobe.org/en/tracking-map


高槻和宏(たかつき・かずひろ)
1955年生まれ。神奈川県在住。ヨット、ボート、カヌーなど、ジャンルを問わず海を遊ぶマリンジャーナリスト。月刊『Kazi』の人気筆者として、長年さまざまな記事を手がける。『虎の巻』シリーズ、『ヨット百科』など、ヨットに関する著作多数。


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