和歌山セーリングセンターで行われた、第73回全日本スナイプ級ヨット選手権最終日。前日の天気予報では、ほとんど風が吹かないことになっていた大会最終日の11月15日。予報は的中し、朝からほぼ無風に近い快晴。気温もどんどん上がって、昨日のような北風は全く期待できない状態。それでも、正午前からふんわり吹き始めた西寄りの風を目当てにD旗が掲揚され、運営艇とレース艇は海面へと出て行った。
SCIRA(国際スナイプ協会)規定による5kt以上の風はおそらく期待できないだろうと、運営スタッフも選手たちも思いつつ、タイムリミットの14:00までは海上で待つという「儀式」を行った。案の定、期待した風は吹かず、コミティーボートにはこの日のレース全てがキャンセルされたことを告げるN/A旗が掲げられた。
この瞬間、昨日までの首位だった渡邊哲雄/齋藤浩二の優勝が確定。渡邊選手(上のの写真右)にとってはヘルムスマンとして初優勝、クルーの齋藤選手にとっても初優勝。昨年大会では優勝に王手を掛けた状況で負けてしまったこともあり、今年の優勝は彼らにとっては格別。風待ちしていた海上で思い切り喜びを爆発させた。
「470級に乗っている頃から『Kazi』にはいつも『名脇役』なんて書かれてましたから(笑)。今年は絶対に勝って見返してやると心に決めてたんですよ。これで正真正銘の主役ですよね? 文句ありませんよね?」と取材記者に詰め寄った渡邊選手。脇役を経験して主役に上り詰めた役者こそホンモノだ。その証拠に、かつて主役だったライバルたちが、万雷の拍手でその勝利を祝福したじゃないか!
4年に一度の周期で大きく盛り上がる五輪クラスとは異なり、スナイプの全日本は毎年同じステータスで選手たちを迎える。今年がダメなら来年がある。その心の余裕がフェアプレーを生み、健全でスパンの長いライバル関係を醸成する。来年もまた、主役の座を狙って真剣勝負が繰り広げられる。
■第73回全日本スナイプ級ヨット選手権大会
2020.11.12~15
和歌山セーリングセンター
この日にレースが行われないことが決まり、風待ちしていた海上で喜びを爆発させる渡邊哲雄/齋藤浩二。
タイムリミットの14:00にあと20分と迫ったタイミングでコミティーボートにN/A旗が掲揚され、この日の全てのレースがキャンセルされたことが告げられた。
逗子開成高校ヨット部顧問の内田伸一選手(左)は、かつての教え子の入江裕太選手とコンビを組み、念願の初入賞となる2位が確定。「コースは全て入江に任せてましたから。この難しい海面で出た結果は、全て入江の実力です」と教え子の成長ぶりに涙を抑えることができなかった。
3位に入った松永鉄也/西島孝。ヘルムスマンの松永にとっては470級、OP級、J/24級に続く、国内メジャークラスの全日本タイトルにあと一歩に迫る活躍だった
ミックス(男女混合)で優勝の慶應義塾大学の菅沼汐音/宮内勇一は、総合でも5位に入る活躍ぶり。2週間前の全日本インカレでは体調を崩して不出場だった菅沼選手にとっては、まさかの好成績だったようだ。
(文・写真=松本和久)
■最終成績