60年目の太平洋横断に挑む、堀江謙一さんに聞く(前編)

2022.02.28

すでに詳しくお伝えしたように、1962年に世界で初めて、太平洋を単独無寄港で横断した堀江謙一さん(83歳)が、その航海から60年を機に、逆ルートになる、サンフランシスコから日本(兵庫県西宮市)の単独無寄港航海に挑戦する。

堀江さんが乗るのは、当時とほぼ同じサイズの19ft艇〈サントリー・マーメイドⅢ〉。コロナ禍で海運の国際物流が混乱していることを考慮して、当初の想定よりも早めのコンテナ船への船積みが決まり、堀江さんの冒険の相棒は一足先にアメリカに出発した。

 

堀江謙一。1938年、大阪府生まれ。23歳のときに世界初となる5.83mの木造ヨットによる単独無寄港太平洋横断を成功させた。航海記『太平洋ひとりぼっち』はベストセラーとなり、石原裕次郎主演で映画化されて大きな話題となった。

 

 

太平洋横断の相棒は
一足先にアメリカへ

1月終わりの新西宮ヨットハーバー(兵庫県)には、テレビや新聞など20社近いメディアが集まっていた。陸置きヤードでは、白い小さなセーリングクルーザーが船台に載せられている。日本を代表するヨットデザイナーの横山一郎さんが設計し、広島県に本拠を置くツネイシクラフト&ファシリティーズが建造したアルミ製の19ft艇〈サントリー・マーメイドⅢ〉だ。社会現象となった堀江謙一さんの『太平洋ひとりぼっち』航海から60年というタイミングで、83歳となった堀江さんが単独無寄港太平洋横断に挑む相棒である。

この日、〈サントリー・マーメイドⅢ〉は大型トラックに載せられて神戸港に向かい、そこから2月上旬にコンテナ船でアメリカ・サンフランシスコへ向かう。コロナ禍で海運が混乱していることもあって、余裕を持ったタイミングでの船積みとなった。前回の取材時には浮いている状態を見たが、陸揚げされている姿を見ると、改めて小さいと感じる。船体長さは5.83m(全長は6.05m)で、幅は2.15mだ。

「60周年ということで、同じ大きさのほうがいいか、という単純な発想です。あと1mくらい大きくてもよかったかな、と思うこともありますけど(笑)。別に大した問題ではないですね」(堀江さん。以下同じ)

そう言って堀江さんは笑うが、このサイズのセーリングクルーザーでの太平洋単独無寄港横断は、現代であっても生死をかけた大冒険だろう。

ヨットは一足先に、サンフランシスコへ。60年前、不法入国者として糾弾される可能性もあった堀江さんを、勇者としてあたたかく迎えてくれたサンフランシスコ・ヨットクラブから出航することになっている。

 

進水してからの
準備期間は約2カ月

昨年11月27日に広島県のベラビスタマリーナで進水して、堀江さんのホームポートである兵庫県の新西宮ヨットハーバーに移されてから、準備期間はわずか2カ月での船積みとなった。もちろん、堀江さん自身も相棒の出発を見送った。

「思ったより早くの船積みになって、急いで準備したのですが、なんとかほぼ間に合って、ホッとしています。いちばん気になっているのは、忘れ物がないかなあということです(笑)。今は船便の会社から途中経過を教えてもらえますし、船便での運搬に関しては過去にトラブルに遭ったことはないので、今回も大丈夫かなと安心しています。そういう意味では(人のほうの)出入国がスムーズにいくかは少し心配ですね。まだ出航まで時間があるので高揚感はありませんが、少しドキドキしている感じです」

まだ食料などは積まれていないが、過去に何度も挑戦のタッグを組んだ設計者の横山さんも出発地のサンフランシスコに渡って、出航前の最終調整をする予定になっている。

「出発を見送るスタッフは(コロナ禍で)最小限にしていますが、横山さんには最後までお世話になろうと思いまして」

2カ月の準備期間には、艤装品の設置や荷物の積み込みはもちろん、6~7回出航して、フネの様子を確認した。少し回数が少ないようにも思うが……。

「ちょっと乗った感じでわかりますよ。大丈夫ですね。信頼感も問題ない。クセがなく、扱いやすい感じです。風が強いときも乗りましたよ。そう、30ktくらいの風の中でリーフ(縮帆)して乗りました」

 

堀江さんが個人所有する35ftヨットのホームポートでもある新西宮ヨットハーバー(兵庫県)から神戸港に向けて搬出される〈サントリー・マーメイドⅢ〉。

 

エンジンもGPSプロッターも
レーダーも不要

今回のアルミ製〈サントリー・マーメイドⅢ〉には、エンジンが搭載されていない。エンジンはないが電気モーターは積んでいる、というようなことではなく、プロペラそのものがない。それについて聞くと堀江さんは、「こんなディンギーみたいな大きさのフネに、エンジンなんていらないでしょ」と笑う。

それどころか、画面上の地図に自船の位置を表示するGPSプロッターや、障害物を示すレーダーも積んでいない。そういった制限下で行うのが“冒険”だと考えているからだろうか。

「いやいや、過去の冒険でGPSプロッターやレーダーを積んでいったこともありますよ。だけど、あんな(小さな)ヨットには合わないでしょう(笑)。緯度・経度さえ出てくれば、それでいいんじゃないですかね。海図を持っていきますから。あと、大がかりなGPSプロッターはなくても、スマートフォンの電子チャートアプリを持っていきますから、そこで地図上の位置は確認できます」

ちなみに堀江さんの位置情報は、船尾に設置された装置から一定時間ごとに衛星を介して自動発信される仕組みになっていて、ウェブサイトなどでほぼリアルタイムで位置を確認できるようになる見通しだ。

 

昨年の12月4日、強風下でのテストセーリング。堀江さんは、フネについて不安な部分は感じなかったという。

フネの詳細については、以下を参照。

堀江謙一さんが太平洋横断で乗るヨットを徹底解剖①

堀江謙一さんが太平洋横断で乗るヨットを徹底解剖②

 

(後編に続く)

 

今後も月刊『Kazi』ならびに『舵オンライン』では、ほかのメディアでは絶対取り上げない、セーラー目線の情報をお届けしていく予定です。

 

(文・写真=Kazi編集部/中島 淳)

 

1962年の最初の太平洋横断の様子を綴った航海記『太平洋ひとりぼっち』、主演の石原裕次郎など豪華キャスト、市川 昆監督で映画化されたDVDも、好評発売中です。

 


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