AC日記04-2 | アメリカズカップ AC40クラス、フォイル開発における三つの鍵

2024.05.06

米国のアメリカズカップ・ジャーナリスト、ジャック・グリフィンの分析動画をもとに、第37回アメリカズカップを考察。読者の皆さんが最も興味があるであろう、フォイルに関する話題。防衛者チームのフォイル前縁がストレートである理由とは・・・。

本稿は月刊『Kazi』2024年4月号に掲載された内容を再集録して公開します。(編集部)

 

※メインカット写真|photo by COR 36 / Studio Borlenghi| 第36回アメリカズカップを制した、エミレーツ・チームニュージーランドのAC75クラス第1世代〈テ・レフタイ〉。来月上旬に進水が予定されている第2世代AC75がどんな進化を遂げているか、ワクワクが止まらない 

※前回の記事はコチラ

 

初めてアメリカズカップを現場で観て以来約30年、その間、ニッポンチャレンジのセーリングチームに選抜されるなどしながら、日本のアメリカズカップ挑戦の意義を考察し続けるプロセーラー西村一広氏による、アメリカズカップ考を不定期連載で掲載する。新時代のアメリカズカップ情報を、できるだけ正確に、技術的側面も踏まえて、分かりやすく解説していただく。(編集部) 

 

フォイル開発における、三つの鍵

前回大会では、各チームのレース艇間の性能差は、主としてフォイル絡みのデザインや構造の性能差を軸にして分析されることが多かった。第37回アメリカズカップ(AC)でも、新型フォイルの開発の優劣が、カップの行方を左右する大きな要因の一つになるのだろうか? 

米国のACジャーナリスト、ジャック・グリフィンは、第37回ACでは、フォイル絡みの性能追求は、前回以上に難易度が高くなっているはずだと指摘する。 グリフィンの具体的な説明によれば、今回の第37回ACのフォイル開発には三つの重要な要素があるという。 

一つ目が、前回ACでのAC75のフォイル(水中翼)と比較して、新ルールではフォイルの重さを100kg強軽くすることが許されていること。 

二つ目が、ウイングのスパン(翼幅)を500mm長くできること。

そして三つ目が、もしかしたら最も重要な要素として、前回大会の開催地オークランド(NZ)に比べて、大きくて複雑なうねりと、強弱が極端に不安定な風とを特徴とする第37回AC開催地、バルセロナ(スペイン)のレース海面に対応できるフォイルにしなければならないこと、だという。 

 

 

Mozzy Sailsの動画はコチラ↓
 

 

基幹デザインの重要性

第37回ACのプロトコルによれば、これら三つの要素をすべて有利に利用することを狙いながら設計を進めて開発し、各チームが新規に作ることができるフォイルは3枚である。しかし、その3枚のフォイルはすべて同じデザインで、同じ面積でなければならない。 

それらのフォイルに一部改造を加えることはできる。しかし、改造を加えることができるのは、そのオリジナルフォイル全体面積の20%以内のエリアに限られる。しかもその際に、そのエリアの元の面積を変えてはならない。 

これらフォイル開発に関する厳しい制限を逆から読み解くと、つまり、第37回ACでは、最初の3枚に共通するフォイル設計の決定で大きな間違いをやらかしてしまうと、レース艇の性能面での失地回復は非常に難しくなることを意味する。 

観る側としての立場からすると、とても面白く、興味深いが、各チームのレース艇開発担当者たちには、相当なプレッシャーが掛かっているに違いない。 

 

写真は第1世代のAC75クラスだが、書き込まれている数字はクラスルール・バージョン2.0から引き写したもの。第2世代のセーリングウエイト最小値は6,897kgになり、第1世代よりも594kg軽くなる 

photo by America's Cup / AC37

 

(文=西村一広)

※本記事は月刊『Kazi』2024年4月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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西村一広
Kazu Nishimura

小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


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